2 BENクー 著 花 『散華の言葉』
草原に座り込んだ私たちは、差し入れられたおはぎを頬張りながら少しひんやりするそよ風の心地良さを味わっていた。遠くにはまだ五分咲きの桜が見える。「『散る花あれば咲く花あり。散る花も元は栄えた花。花が肥やしになって次に咲く花を育てるんじゃ』…俺は爺さんからこう聞いた。だから俺はここにいる。俺は次に咲く花の肥やしになる」
浩介はこう言って、特攻服に包まれた身体で天を仰いだ。「俺はどうしようかな」
何気なく呟いた私はすぐに後悔した。何も言わず、ただ虚ろな眼差しで空を見ている浩介に対して何と心無い言葉を吐いてしまったのかと思ったからだ。
昨年まで同じ中等学校(今の高等学校)にいた私たちは、学徒動員のあおりを受けた繰り上げ卒業と同時に召集され、私は整備士、浩介は飛行士として今の航空隊に配属された。「お前は自分が納得できる人生を送ってくれ。絶対に生きることをあきらめないでぐっ…、ぐっ、ぐふっ。おっ、おぢゃっ!」
おはぎを喉に詰まらせた浩介は、お茶を飲み干すとバツが悪そうな顔で口元をほころばせた。翌日、ほころんだ桜が私の記憶の中に刻み込まれた。浩介は、突如開いた桜の花に見送られながら南の空へと飛び立って行った。それから半世紀以上が経ち、空襲と見紛う光景を目にした私は、今さらながら浩介の言葉を思い出すと思わず呟いた。
「俺たちはまだ生きなきゃいけないようだ。肥やしは充分だもんな。なあ、浩介…」
☆☆おしまい☆☆




