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自作小説倶楽部 第4冊/2012年上半期(第19-24集)  作者: 自作小説倶楽部
第20集(2012年2月)/「チョコレート」&「猫」
15/62

5  パールくん 著 猫 『フンガイ』

 今朝、ウンコをふんだ。

 数日ぶりに晴れて、ちょっぴり暖かい気持ちのいい朝だったのに。

 学校に行こうと玄関を出て、たったの3歩でアウト。

 わたしはズルッとなったけど転ばなかったから、被害は最小限だった。

 いちばんお気に入りのピンクのスニーカーだったけど。

 半分泣きながら家に入ったら、お母さん「ぎゃー、その靴ではいらないでっ!」ってひどいよね。

 わたしはすぐに他のスニーカーに履き替えたけど、結局ピンクのは捨てられちゃった。

 もったいないなぁ。

 お母さんが言うには、猫のフンは臭いがきつくて、洗ってもとれないんだって。

 ほんとかな。

 そう、うちの庭は猫のトイレにされちゃってるんだ。

 しかも、わたしが思うに、公衆トイレなの。

 野良だけじゃなくって、近所の飼い猫もしているんだ。

 だってこの前、向かいの濱田さんとこの猫がしてるのを見たんだもん。

 お母さんに言ったら、「あらっ」って目をつり上げてお父さんに報告してた。

 そのあとふたりで濱田さんに、やんわりと苦情を言いに行ったみたい。

 そしたら、濱田さん何て言ったと思う?

 「まあ、ヨッシーちゃんは、お宅が好きなのね」

 だってさ。

 帰ってきてから、お母さんは「きぃー!」ってなったんだけど、お父さんが「フン害に憤慨してるな」って、しょうもないダジャレを言ったもんだから、その場の空気がピシャーンって凍っちゃって。

 そのまま、解凍に失敗したお刺身みたいに、家族がダラーンって脱力しちゃったんだ。

 とにかく、困ってるんだ。


 学校が終わって帰り道。わたしは、もうウンコふまないぞ!と気合いを入れながら、ランドセルの肩ベルトをギュッと握りしめた。

 家の門に近づいたところで、珍しいものを見ちゃった。

 じぃじが立ってる。

 じぃじは、いつも居間のテレビの前の肘掛け椅子に座っていて、動いてるところなんて見たことがない。(ちょっと大袈裟かも)

 足が痛いみたいで、いつも、 じーっと1日中テレビを見ているんだ。

 まぶたが垂れててよくわかんないけど、寝てるときもあると思う。

 もうね、椅子にお尻がくっついちゃってるんじゃない かってくらいなんだ。

 だから、じぃじが外に立ってて、すごくびっくりした。

 しかも、その姿勢が衝撃的だったんだ。

 足を大きく広げて、ひざを曲げ、腰がググっと落ちてる。

 右腕を前につきだして、体を開いて、左ひじを後ろにひいてて、指先が空をむいてる。

 なんかね、西洋の騎士とか、フェンシングの人みたいだった。

 だって、右手で閉じた傘をつきだしているんだもん。

 「何してるの?」じぃじに近づいた。

 じぃじは、真剣な顔で門柱の上を見続けてる。

 そこには、猫がいた。

 「あ、濱田さんちのヨッシーだ」

 わたしが帰ってきたのに、じぃじはヨッシーを睨みつけてる。

 ヨッシーは、お日さまであったかくなった門柱の上で丸くなってる。

 横目でじぃじを見下ろしてる態度は、「フンッ、じじぃが」って言ってるみたいで、憎たらしい。

 これは、じぃじとヨッシーの男の戦いなんだな。

 じぃじが、庭を守ろうとしてるんだ。

 なんか、迫力で負けてるけど。

 わたしは、黙って男の戦いを見守ることにした。

 じぃじは優しいから、猫に直接痛いことはしないけど、傘を振って「シッシッ」って追い払おうとしている。

 ヨッシーは、攻撃されないと完全にナメている感じで半分目を閉じてる。

 あー、もうダメだ、気迫が足りないよ。

 わたしが諦めかけたとき、ちょっぴりじぃじの指先が動いたかと思うと、ボフンと傘が開いた。

 ヨッシーはアニメの猫みたいにギャっと飛び跳ねて、塀づたいに隣の庭に逃げていった。

 「やったー!じぃじ勝った!」

 わたしは、嬉しくって飛び跳ねた。

 じぃじは、静かに傘をたたむと、こっちを見てグッと親指を立てた。

 ニヤリと笑った口元には歯が1本しか見えなくて、あ、入れ歯忘れてるって思った。


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