プロローグ
2018年10月5日、夜。
いつもよりも遅い時間。
俺はプラットホームの奥で急行電車を待っていた。
十月中旬に控えている文化祭の準備が長引いたのだ。
おかげで、トマコレの新作を買いそびれてしまった。早めに帰って、近くの店でお安く手に入れる予定だったのに……
文化祭実行委員があんな明るい言葉で皆の背中を押すもんだから、一時は間に合わないとすら思われた二百枚のポスター作りをすべて終わらせることになってしまった。
全くもって優秀な実行委員だと思う。
まぁそのせいで、トマコレ買えなかったんだけどね!!!
そんなことを思いながら、一つ前の駅まで電車が来ていることを知らせる発車標をなんとなく眺めていた。
すると突然、
『聞こえますか、あなたは神に選ばれました。 佐々木 優さん。』
頭に直接響くような、美しい女性の声。
咄嗟に辺りを見渡したが、それらしい人は見えない。
そこでふと隣で立っていた別の高校の制服を纏った女性に目が止まった。
彼女が、驚いたような顔であたふたとし始めたのが気になったからだ。
何もないはずなのに、見知らぬ女子高生はぶんぶんと辺りを見渡し始めた。
そして、謎の声に呼びかけられている全く知らない名前。
俺の中で点と点が繋がった。
......あぁこれあれだ。俺じゃなくてこの人、多分佐々木さん?が話しかけられてんだ。
『私はとある別世界の女神 シルエンと申します。』
「か、神様!?それに別世界って...もしかして異世界とかですか!?」
確定だっ!!
見知らぬ女子高生は驚き混じりに大きな声で会話を始める。
周り、結構人がいるのに。
俺含め、他の人達はやばいものを見るような目で見たり、目が合わないように俯いたりした。
俺はこの声聞こえてるけど、他の人は多分違うんだろう。
完全にやばい奴認定したのか、周囲の人たちはどんどんその女子高生から距離を取っていく。
というか、俺でも少し.......
ちなみに、当の女子高生本人はというと、
「チートはやっぱり一個だけですか!?なら一見外れスキルっぽいのが欲しいです!!あと転生先は貴族の三男くらいがいいです!!それと可愛いメイド!!」
自分の知る限りのラノベ要素をリクエストしながら、それはもう大興奮だった。
そんな女子高生に女神すら軽く引いている。
『え、えぇとどの人に転生するかは私も分からなくて……あ!でもっ!!スラム街の貧困少女とかにはならないので!!そこは安心してください…』
「あ、なるほどそういう......」
そんな女神の言葉に、スーツ姿の男は少し肩を落とした。
「でも、チートは?チート能力はないのですか...例えば、創造だったり鑑定だったり...とか....とか....なんかもいいですよね!!あとは...」
『そ!!そうゆうのは転生してみれば分かりますので......それでは佐々木 優さん。いえ、光の勇者よ!!我の世界を、民達を魔王の手から救い出して下さい!!』
彼女によるマシンガンみたいな質問攻めが鬱陶しくなってきたようで。
女神は彼女の言葉に割り込んで、異世界転生のテンプレのような台詞を言い放った。
それと同時、女子高生の足元が神々しく光り出す。
「うおぉ...」
.......声もそうだが、この光も俺が見えていて良いものなのか?
『魔王討伐の暁には、何か一つ願いを叶えて差し上げます。どうか頑張って下さい。』
「しゃあっ!!私はもうあんなクソみたいな学校に行かなくていいんだーー!!」
光はとても眩く、俺まで包み込むほどだった。
あれ、もしかしてこれ......
俺も転生する?
なんとも言えない浮遊感に思わず身震いする。
お!!おおっ!!!!声が聞こえた段階で、まさかとは思ったが.......来たんじゃないか!?俺まで転生!!
完全に巻き込まれ喰らってるだけな気がするけど......
そんなことを考えていると、光がどんどん強まっていく。
「眩しっ!ちょっ!...眩しっ!!!」
この世界で最後に見た、あの神々しい光は結構、本当に眩しかった。
♢
しばらくすると、光が徐々に引いていき、俺はゆっくりと瞼を開いた。
目の前に広がる、いかにも中世ヨーロッパでありそうな石造りの家々。
日本なら一発で銃刀法違反な、大剣をモロ出しにしたガタイのいい男。
そして、レンガが敷き詰められた大きな一本道。
紛う事なき、異世界だ!!
夢にまでみた異世界。
ここから、俺の新たな人生が始まるのだ。
なんだかそう思うと、トマコレとか学校とかどうでもよくなってきた。
「ふぅぅぅぅ」
自ずと膝をつき、俺は奇声を高らかに上げていた。
周りからすごい目で、見られている気がするが関係ない。
少しだけ彼女の気持ちが、分かった気がする。
悪かったな見知らぬ彼女、マジ◯チなんて思って。
ひとしきり叫んで、冷静になった俺は、街の中でも一際目立つ噴水に腰掛け、今後の予定を立てていく。
「まずはやっぱり冒険者ギルドだよな!」




