第四話「侵入前の祭りの思い出」
「これなんだ?」
アルが人形の片腕をぶらぶらと揺らし聞いた。
真っ黒で禍々しいオーラを放っているそれはどう見ても普通のものではない。
「あ。それ、持った人の首絞め殺すやつだよ。なんでこんなとこに置くかなぁ」
「え、何もなッ、うわ動いた!!」
床に落とした腕は這いつくばるようにして体を上っていく。
アルはそれを蹴ってかかと落としで踏みつけた。
「よし!」
壊れた腕からは煙が上がり、焦げ臭い匂いが部屋に充満した。
「おまぇら、何か見つかったか?ってなんだこの散らかり具合」
カーラはその光景に顔が引きつった。
部屋を覗くと、棚に並べられた瓶入りの薬品以外資料や魔道具が床を埋め尽くしていた。それも触ってはいけないような禍々しいものばかり。
「色々探してるけど、ここにはなさそう。多分一目につかない所に隠してる」
「それじゃあ、地下とかか?」
「うん。だからここはアルに任せるべき」
棚の下に手を突っ込み、取り出した本を放り投げリリスは部屋の入口に立つ。
「何でだ?あいつに任せるよりお前が魔法使った方が早いだろ」
「私はまだ14歳。だから魔力の無駄使いは禁止。それにアルは天性の才があるから」
小さく笑みを浮かべ、アルを見るリリスにカーラも同じ方を見る。
「あいつにか?」
よくわからない魔道具を持っては試し、遊んでいるだけに見えるアルに、カーラは疑いの視線を向け指指す。
「ん?う~ん。太陽と月?魔導書?」
床に何枚もある紙の中から一つを手に取り、アルは言う。
「この本のこと?」
さっき放り投げた魔導書を拾い上げ、リリスはアルに聞く。
確かに表と裏の表紙には太陽と月が描かれていた。
「うん。それの多分このページ?」
「うわッ。属性魔力の限定術式。この中のどれかが属性変換を促すものだとして」
「多分これじゃね」
机の上にあった何の変哲もないI字の金属製の棒をリリスに見せる。
「さすがアル!これで魔術が発動できる」
「いやいや、待て。どういうことだ。その紙も棒もなんの手掛かりもなかったんだぞ」
(勘が鋭いだけの話じゃねえ)
カーラは冷や汗を浮かべ、アルを見る。
「でしょ!」
当の本人はドヤ顔で言うが、どれほど自分がすごいのか分かっていないようだった。
「じゃあ、始めるね」
金属の棒が宙に浮き、魔導書の紋様が煌びやかに色をつける。
まるで星の輝きのように魔法陣の全てに色がつき、少女の足元にも同じものが浮かび上がると、空間に亀裂が入りガラスのように割れる。
「これは……」
すると、正面の棚が消え扉が現れた。
「おおー!!すげえ!!隠し扉だ!!隠し扉!!!」
ぴょんぴょん跳ねて指さすアルとは別にカーラは違和感を感じた。
「奥に部屋なんかあったか?そこは外だろ」
「いや、元々私たちがいたのが多分別の空間。ここが本来の魔女の家なんだと思う」
「何言ってるかわかんねえけど行こうぜ!!こんなワクワクすんの待てないしな!!」
駆け出していくアルを追うようにカーラも歩いていく。
「すまん。今回は俺もよく分からん」
「………」
リリスも続き、三人は奥へと進んでいった。
そこは狭い一室の地下空間。先ほどよりも雑に壁一面に張られた紙、床にばら撒かれた本があった。
「よし、これだ!!」
床の散乱した紙の中に手を突っ込み、アルは一つの本を取り出す。
それは王城の造りについて記載された書物だった。
「お前の勘どうなってんだよ」
「なんか、よく使われたやつとか新しく置かれたやつとかが分かるんだ」
「だとしたら、この本をよく一発でとれるよな」
三人は外に出る。
フード付きの服で身を隠し、リリスは眼鏡をおもむろにかけた。
「どう?」
「最っ高にかしこい!!僕もー」
魔女の家に戻り、がたごと音を立てながら探すアルにカーラは頭を抱えため息をつく。
「お前らな、ばかやってねえでさっさと」
アルが派手な星型の眼鏡をかけたその時、お腹の鳴る音が聞こえ、二人はカーラを見る。それにカーラも同じ方向を向いた。
「俺じゃねえ」
「いや、」
「俺じゃねえからな!!」
カーラはそう言うが、二人は顔を見合わせる。
アルがフォークを持って口に入れるジェスチャーをすると、リリスが三回も頷き親指を立てる。
「お腹空いたし飯にしようぜ」
「だが、時間が」
「そんなこと言って倒られると私たちが大変」
「んーそうか。じゃあ、食べるか」
腕を組み、自分が納得するように頷きカーラは街中へと歩き出した。
◆ ◆ ◆
「ってことで祭りだー!!!」
祭りのど真ん中、人の集める公園で両手に四本くしを挟み、跳んで笑顔で言うアルに、リリスとカーラはさらに路地に引っ込んだ。
「あいつ、俺が追われてるの分かっててやってんのか?」
「いや、逆に灯台元暮らし的にありかもだよ」
こそこそと話す二人はもらった焼きそばに手を付ける。
「というか、王立図書館は?平気で入ってたけど」
「顔は大丈夫だ。声は聞かれたと思うが」
太鼓の音が響き、より一層熱気が伝わる。
だが、路地裏を見ると真っ暗闇が続いていた。
反対を向き、屋台と通りの明かりや人通りがカーラの目に映る。
「この景色でさえ夢物語か。楽じゃねえな」
歩みを進め、路地から顔を出すと、リリスに合図する。
「そろそろ行くぞ。呼んで来い」
「了解ー。兄さん戻って」
耳に手を当て言うと、アルが跳んで戻ってきた。
「そろそろか?まだ全然、回ってないぞ」
「すまんが、そんな時間はない」
「そうかー?なるかもしれないし、ならないかもしれないだろ。そんな分からない未来のために、今をつまらなくするのはあれじゃねえか?はい、これわたあめ」
「ん!!」
無理やり突っ込まれたそれにカーラの口周りがべたつき、眉をよせる。
「お前」
「私も同意見。遊ぶ時は遊ぶ。それが大切って私は思う」
もらったりんご飴を舐めて、悠長に言うリリス。
二人に言いたい気持ちを抑え、わたあめを食べつくすとカーラは壁に寄りかかりそっぽ向いた。
「ほんと理解できねえな。お前ら」
突き放すように言いながら、カーラの表情には小さな笑みが張り付いて取れなかった。
(甘いってこんな味だったのか)
◆ ◆ ◆
「それで作戦はどうする?」
「そんなんヒューっと走ってバアン!!ってやればいけるって」
腕を回して拳を振るう動作をするアル。
「バアンで見つかるじゃねえかそれ!!」
「時には障害を全てはね除けるのも大事だ」
カッコつけて言うアルにカーラは項垂れる。
「隠密なんだぞ。ばれたら終わりなんだぞ。分かってんのか?」
「その領分は自分じゃないな。よし、リリス!!あとは頼んだ!!」
白い歯を見せ笑顔で言うアルは草むらに寝そべり夜空を見る。
三人は王城に近くある森の中にいた。警戒する衛兵をこちらからは見れ、相手からは見えずらい位置だ。
「じゃあ、その前に一つ聞いていい?」
「ああ」
「魔王を復活を目論んだのって、もしかして人間じゃない?」
後ろではしゃぎ回るアルの足音の中で聞こえたリリスの言葉にカーラは天を仰いだ。
(あ、そういえば言ってなかったな)
「ああ、そうだ。この北の地に逃げ込んだのはある一人の人物。その者は永遠に近しい寿命を持ち、己が思うまま精霊を操ると言われている。名はメルア。精霊種だ」




