第二話「信用信頼の種」
「結界の外?外は危険だってお母さんは」
リリスが考えこむのを尻目に男は話を続けた。
「まぁ、ともかくこの国は近々滅ぶ。だから、早く何とかしなきゃいけねぇと無茶したんだが、下手しちまってな。今は衛兵に追われてる」
「じゃあ、何でお兄さんはこの国に、」
「まぁ、とりあえず何かやばいんだろ。俺たちが手伝ってやるから任せろ!」
割に入ったアルはにっこりと笑って言うが、リリスは違った。
「待って。この人の言ってる事は信じられない。そもそもなんで滅ぶかもしれない国に来る必要がある?」
「そりゃあ、俺だってこんな鳥かごの中になんて来たくなかった。無理やりだったんだ。国に入らなきゃ殺すって脅されてやむなく来ちまった」
「鳥かご?鳥じゃねぇぞ、俺ら」
「アル、多分そうじゃない」
純粋なアルの疑問に、リリスはジト目で否定する。
「ここもじきに追っ手がくる。俺が言っている事が信じられないなら、人通りの少ない場所にこい。そこで話す」
フードを被り、扉とは真逆の窓へと二人の横を通る。
「それで、あんたって名前なんなんだ?」
窓を開け、ふちに手をかける男にアルは問いかける。
「カーラ。ただの罪人だ」
二人に振り向き名乗ったカーラは窓から外へと飛び出した。
その時、フードで顔は見えなかったがどこか気分の悪い顔をしていたとアルは思った。
「おーい!!俺の名前はアルだーー!!」
遠くまで響く大きな声に、リリスは耳に手を当てた。
「行っちゃった。俺たちも行くか!」
「うん」
二人はカーラについていった。
しかし、行く先々が祭り騒ぎのド真ん中だったため途中からはアルが先導した。
「ここなら多分だれも来ないぞ」
街の外れ、結界の目の前に佇む古びた風車に到着した。
「それで鳥かごってのはなんだ?」
電球が不規則に点滅する冷たい室内で階段に座り、アルは聞いた。
「そうだな……おまぇらはまだ信用できねぇ。ここまで連れてきてくれたのは感謝してるが、全てを言うつもりはない」
「私たちはただの子供。無邪気で元気な子供だよー」
リリスは足をブラブラと動かし、可愛らしい声で棒読みに言った。
「ただの子供が魔法使えて、怪しさ満点のこの俺を手伝うわけないだろ……」
頭をかき、飽きれた様子でカーラは言う。
それに、何を言っているのか分からないというようにアルとリリスは顔を見合わせた。
「まぁ、だからおまぇらを頼ってるんだけどな。空に浮かぶ星時計は知ってるよな?」
「そりゃあね」
「じゃあ、あれが何なのか知ってるか?」
「はいはい!!」
アルが手を勢いよく挙げ、元気いっぱいに答える。
「ただの時計!!」
「アホか!だったら質問してねぇよ!不正解だ!」
「国を守る対魔物理結界を発動•維持してる円環術式兼星時計。それ以外はまったく」
「おぉ、よく知ってるな。あれは外からも中からも一切の干渉を閉ざす球型の結界を維持する魔法陣。対象は魔力を帯びた全ての物体。つまりこの世にある大半の物はあれを通れない」
「じゃあ、やっぱりカーラって」
「ああ、俺は魔力が一切ねぇ人間だ。まぁ、それはいいとしてここからが本題だ。あれは気づかねぇほど微量だが、国中の人間の魔力を少しづつ吸っている」
「そうなの?」
リリスは手の上で魔法陣を浮かべ、小さな火を出す。しかし、どこかに魔力が吸われてる感覚はなく首を傾げた。
「この国で育ったんなら、そもそも吸われてる前提で魔法が発動してる。だから、気付けないんだろうな」
「って、それじゃあ、もしかして百年間!?」
声を大きくしたリリスにカーラは無言で頷いた。
「いったい何のために……」
「さぁな。他国はそれを知ってるらしいが、俺の国は小さいから情報が回ってきてねぇ。分かってることといったら、魔力が満ちたその時、この地に魔王が復活し、周辺の国々は消滅することだけだ」
「それでこの国に?手持ちなしって無謀じゃない?」
「ほんとそうだよな。あんな国勝手にくたばれ。まぁ、で、俺は何かしらあるんじゃないかって思って王城に忍び込んだが、結局見つかって今に至る」
「だから、あの時急いでたのか!」
「ああ、星時計に一点を指す針と数年経っても動かない針があるだろ?」
カーラは壊れかけた木製の扉を半分開け、空を見る。アルとリリスも一緒に覗き込んだ。
「確かに!」
十二に分割された文字盤の上を動く長針と短針。
それだけに気を取られるように存在感のない銀色の0時を指す針と59分を指す針が目に映る。
「もしかしてあの二つ……?」
リリスは顔を引きつらせ、アルは口をぽかーんと開けていた。
「ああ、あれが重なった時この国は終わる」
「ま、なんとかなるか!!」
「兄さんがそう言うなら、そうなんだろうけど」
諦め混じりにリリスは言う。
「それでおまぇら、ついてきてくれるか?てか、こい。じゃねぇと、俺もおまぇらも全員死ぬ」
カーラは強引に二人を誘う。
相手が子供でこの先危険だろうが容赦はしない。
風車がガラガラと音を立て、ぶら下がる電球が点滅する。言葉のない静寂の中で不気味に機械が動く。
重たい空気の中、しかし、アルには事の大きさなど知った事ではなかった。
「言ったろ。手伝うって」
アルはカーラに手を差し出す。
その目には一切の迷いがなかった。
「アルがそう言うなら私も。それに話が本当なら結界の外、星に行く手がかりになるから」
アルの顔を覗くようにリリスは横に立つ。
その表情はさっきまでとは異なり、柔らかくなっていた。
差し出された手をカーラは握ろうと一歩前に出る。その手を握ろうとするが、手と手が触れる寸前止まり、一瞬歯噛みし表情が強張る。
だが、すぐに手を前にし握手を交わした。
「……よろしく頼む」
アルは強く握り、カーラもそれに合わせるように強く握った。
「てか、なんで王城なんだ?」
「そりゃあ魔法陣円形だし、国の真ん中が一番怪しいだろ」
「その考えは合ってると思う。大体魔法陣の中心に発動元があるから」
三人は外に出る。
気づけば空は夕焼け色に染まり、暖かい風が吹いていた。
「それでどうする?俺には学がねえから、一か八かで王城突っ込むぐらいしか策がないが」
「国立図書館。そこに行けば王城の作りについてが書かれた書物があるかも」
「よし、それで行こう」
リリスの提案にカーラは乗り、アルが先導して前に進む。
夜が近づき、祭りの勢いが活気づく中、三人は祭りのど真ん中へと向かった。
◆ ◆ ◆
「それにしてもでかいなー」
上を見上げカーラは言う。
まるで宮殿のような白さと荘厳さ。一般人が入っていいのか怪しいぐらいだが、今日は休憩所のような役割を担っているらしい。人通りも少なくなかった。
「よし、行くか」
カーラは扉を開け中に入った。




