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星時計の国〜少年と幼なじみは星を目指す〜  作者: がみれ


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第一話「子供の夢と罪人との出会い」

8〜14話以内で完結予定です。

(僕らには夢があった)


「見ろよ、あの高い塔の天辺。あそこに先に着いたやつ勝ちな」


 それは一人の幼じみと夢みる、馬鹿げた妄想の話だった。


「え〜〜あそこまで?」


 気が乗らないといった様子で少女は言う。


「いいだろ?勝ったやつがアイス、おごりな」


「分かった」


 少女は目をつぶり渋々納得した。

 手のひらを広げ、少女はある物を手元に呼び寄せようとする。


 足元の瓦礫が浮き、広げた手にゆらゆらとした青白い光が漂う。その瞬間、路地から地面を擦るような音が聞こえ、ほうきが空を飛んで少女の手に収まる。


「あ、ずる!!」


「魔法を使っちゃいけないなんてルールないもん」


「じゃあ、それで天辺まで行くの禁止な。ちゃんと下から行けよ」


「分かった」


 ほうきにまたがり、少女は上を向く。

 対する少年も目線は塔の上にあった。


「「よーーい、どん!!」」


 二人は同時に駆け出した。

 街一番人通りの少ない大通りのど真ん中を疾走する。


 二人の勝負は街ではそこそこ有名だった。

 話はすぐに広まり、だんだんと道のわきに人が集まってくる。


 明日の祭りの飾り付けをする男たちも手を止めた。


「今日もドンパチやってんな」

「おい、あいつらどっち勝つか賭けねぇか?借金やべぇんだよ」

「いいぞーー!!行けーー!!!」


 数々の応援の言葉、一目見ようとする人たちの視線の中、二人の視界に映るのは塔までの一本の道と互いの姿だった。


「二連続も負けてたまるか!!」


「アイスは私の!!」


 塔の下、人々が自然と道を開く。

 それを横目に二人は突っ切り、塔の元へ。


 らせんの石段を強く蹴り、ほうきの先から炎のように出す魔力が空気を押し出す。音が後を過ぎ去り、二人は、


「「ゴール!!!」」


 同時に着いた。

 引き分け。それでも、二人は楽しげに笑いながらゴールし、誰もいない塔の上で寝転んだ。


「今日は引き分けだな」


「じゃあ、好きなアイス互いに奢りだから」


「お前、俺が甘いの苦手なの知ってて言ってる?」


 息を切らし、二人は空を見上げる。

 目線の先、そこに浮かぶのは国全体に広がる一つの巨大な星時計とそれすら覆う大結界。いつもと変わらず、針は正確に動き時刻を示していた。


「あの時計の先、空の上は何が広がってんだろうな」


「いつか、見に行こう。空の上まで飛んで、どこまでも高く」


 少女は目を輝かせ、手を空へと伸ばす。

 まるでそこに宝石があるかのように。


「ああ、そうだな!!」


 少年は少女の顔を見て笑みを浮かべる。

 それが宝石だと疑わず。


「うん」


 少女も同じように笑った。


(僕らには夢があった。時計の先の空の上、途方もない距離の先にある何かを見るという、たったそれだけのちっぽけで大きな夢だ)


 ◆ ◆ ◆


 塔に登った次の日。

 今日は国全体を巻き込んだ祭りが催された。熱気と活気が大通りを埋め尽くし、屋台の数々が軒を連ねている。


 当然、二人も祭りの中に入っていったが……


「無理…、ほんとに」


 壁に手を当て顔色悪く俯く少女に合わせ、少年は冷たい路地で背中をさすった。


「リリスは本当に人混みに弱いよな」


「今日は特に駄目かも。うッ……」


 口に手を当て、リリスは今にも吐きそうだった。


「大丈夫か?100年祭だしな。いつもより人が集まってるんだ。仕方ない」


 大魔法使いが国全体を覆う結界を張り、ちょうど100年の大祭。国家主体の祭りは星時計が夜の0時を過ぎるまでの丸一日間行われる。


 賑わいは今までの祭りの比ではなかった。


「ごめん、アル。祭り、楽しみにしてたでしょ」


「そりゃそうだけど、まずは安静にしなきゃだろ。それに、リリスと一緒だったらどこでも楽しいし、別にいいぜ」


「ありがと」


「祭りは長いんだし。あとでどっか、人通りの少ない場所を」


 その時、パリンと何かが割れる音が聞こえた。

 少年は音の方向に興味津々に路地の奥をのぞく。


 すると、三歩歩いた先に緑色の鉱石の欠片が散っていた。


「これは…魔石?」


「おまぇら、そこどいてろ!!」


 上から突然、男の声が聞こえた。

 その瞬間、欠片は緑色の光を帯び始める。少年が見上げると、くたびれた服を身にまとい、落下する男の姿があった。


 少年は一歩踏み出すが、魔石の欠片が風を生み出すのを見て動きを止めた。


 風は落下の衝撃を和らげるようにして男を持ち上げたのだ。


(すごい!魔法を強化するだけの魔石にあんな使い方あるのか!)


 少年は感心するようにその光景を眺める。

 しかし、


「ぶへッ……」


 浮いたのは一瞬。

 体勢がうつ伏せになったまま、男は地面にぶつかった。


「大丈夫か!?」


「あ?見ての通り、風で勢い殺したからな」


 見上げた顔は魔石の欠片が刺さり血が流れていた。


「大丈夫じゃねぇ!」


「これぐらいは傷の内に入らない。それより、どうする。もう時間が」


 一人言のように呟く男の表情はどこか余裕がなかった。立ち去ろうと背を向ける男をアルは引き止めた。


「ちょっと待って。リリス魔法使えるか?」


「少しだけ」


 ぐったりするリリスに肩を貸し、アルは男の前まで連れて行く。


「何だ、忙しいんだ。魔法使いごっこに付き合ってやる時間は、ってまじか……」


 温かく包み込むような魔力に纏われ、男の傷は綺麗さっぱり無くなった。


「ありがとな。リリス」


「このぐらいは寝ててもできる」


 親指を立て目を瞑りながら、満足そうにリリスは言う。


「寝ながら魔法ぶっ放して、家燃やしたことあるもんな」


「いやいや、待て。子供が魔法を使える?どんな冗談だ?いや、それよりも」


「こっちにはいねぇーぞ!!」


 上の方からまた声が聞こえた。

 今度は目の前の男とは違い、遠くにいるようだった。


「やべえな。ここもすぐに追っ手が」


「追われてるのか?」


「ん?ああ、濡れ衣だけどな。捕まったら牢獄行きだ。ったく、今はこんなことしてる暇ねぇのに」


 男は上を見上げ、顔に汗を浮かべる。

 その先にあるのは壁で隠れた星時計の断片。常に動く長針と短針ではなく、何を指しているのか分からない一本の謎の針が不気味な音を立て針を進めた。


「じゃあ、助けてやるよ。俺とこいつで」


「はあ?何でだ?助けるぎりねぇだろ」


「俺が助けるべきだと思った。親の教えだ。『お前は勘に従っとけ、そうすれば大体いい方向に行くから。頭脳の領分はリリスに頼め』ってな。リリス、隠匿系の魔法使えるか?姿と声隠すやつ」


(こいつは何を言ってるんだ?損得勘定もなく、ただの優しさで俺の事を?)


 手を差し伸べる少年の意図が、男には理解出来なかった。


「俺は……」


 その時、路地の奥からゆったりとした足音が聞こえ、男は咄嗟に二人を抱え、家の中へと押し入る。


 二人を床に放り投げ、手が焦りで言うことを聞かないが、急いで扉の錠を閉めた。


「今言った魔法使えるか?すぐに!!」


「もうやってる」


 落ち着いた声でリリスが言った。

 さっきまでの顔色悪かった様子は消え、表情は無くなっていた。疑うような嫌な視線だと男は感じる。


「それで、お兄さんは何で衛兵に追われてるの?」


 リリスは手のひらを男に向ける。

 その目には一切の迷いがないと、男は気づく。


 視線を大通りの喧騒の方に向け、数秒沈黙し男は決心して言葉を発した。


「この国は近々滅ぶ。外と内、どっちからでもな。俺は外から来た。結界の向こう側レベリスト大陸から」

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