8:孤独と約束
私は今シャワーを浴びている。でも自分の家ではない。ここは石井の家だ。
あの後、私が泣き止むまで石井は側にいてくれて、家まで送ると言った。
でも私は今1人になりたくなかった。
私は帰りたくないと子供みたいに駄々をこねて言う。すると石井は何も言わずに自分の家へと連れてってくれた。
シャワーを浴び終えて、濡れた髪をタオルで乾かしながらリビングに向かう。服は石井が用意してくれた大きめのYシャツ。
ソファに座っていると、石井はマグカップを2つ持ってきた。そして、左手に持っているマグカップを私の前に置く。温かいココアだ。石井はコーヒーだ。
石井はコーヒーを一口飲むと、親御さんは心配していないのかと聞いてきた。私は迷わず、母は出張中で父はいないと答えた。石井は申し訳なさそうな顔をする。
そして次に、どうしてホテルに付いていったりしたんだと聞く。お金が欲しかったからと答える。
なんでお金が欲しかったんだと聞く石井。私は迷ったが、石井には嘘がつけないと思い正直に答えた。
『1億円貯まったら自殺するから』
と。
これにはさすがに石井も驚いていた。
そりゃそうだろう。目の前にいる人間が、自殺するために金を貯めていると言ったら誰だって驚く。
しばらく沈黙が続いていたが、石井は立ち上がってサイドボードの引き出しを開けると、何かを取り出してすぐ戻ってきた。
そして、それを私の前に差し出した。
見慣れ茶封筒。これは石井に会った時、帰り際毎回渡す封筒だった。
しかし封筒はいつもと違ってかなり分厚い。
私はそれを受け取ると、中身を確認する。
中には1万円札がぎっしり入っていた。ざっと数えて100万は入っている。
すると、石井は正座し、頭を下げて言った。
『これから会う度100万渡す。その代わりもう自分以外の人とは会わないで欲しい』
と。
あまりの石井の熱意に、私は仕方なく了承した。
1回会う度100万は大きい。これはいい話が舞い込んできたと自分に言い聞かせることにした。
しかし、私は気づいていなかった。この時石井がどんな思いでこんな約束をしたのかを…。




