自由の実
この国では、王が富と知恵を独占している。
喉の渇きと、未来への渇望に苦しむ少年たちは、一本のりんごの木を見つける。それは希望か、それとも破滅か。
知恵を独占しようとする権力と、分かち合う自由を求めた双子の物語。
僕は喉の渇きに耐えられず、口の中に溜めていた唾液を飲み込んでしまった。
「ゴクリ」という音が、空っぽの喉の中で異様に響いた。
隣に座っている双子の兄の顔を覗き込む。
目に光はなく、唇は白くひび割れ、肌の潤いも消えていた。
水が欲しい。
暑さと渇きで、頭がおかしくなりそうだった。
この国では、王が富と知恵を独占している。
民は飢えと渇きに苦しみ、僕たちのような子どもが捨てられる。
⸻
またすぐに喉が乾いてくる。
その時、強い風が吹いた。
大量の砂埃が舞い上がる。
目を閉じていると、どこからか爽やかなリンゴのような香りがした。
「りんごだ!!」
叫んだけれど、声は出なかった。
兄も匂いに気づいたようだ。
キョロキョロと辺りを見回している。
渇きと空腹による幻ではなさそうだった。
このまま干からびて死ぬのは嫌だ。
僕たちは、最後の力を振り絞って、匂いのする方へ歩き出した。
⸻
風の吹いてきた方向をいくら探しても、見つかるのは王の象徴である「りんごの旗」ばかり。
りんごの木はない。
それでも進んでいくと、いつしかとても広く豪華な建物に迷い込んでいた。
力を使い果たし、諦めるように近くの柱に寄りかかったその時――
ぽとり。
りんごがひとつ、落ちてきた。
柱と思っていたのは、りんごの木だったのだ。
兄がりんごを拾い上げ、僕に差し出してくる。
僕は一口だけかじり、すぐに突き返した。
兄と一口ずつ食べていると、
遠くから慌ただしい足音や「探せ!探せ!」という声が聞こえ始めた。
何が起こったのかわからない。
兄が僕の手を引き、突然走り出した。
⸻
やっと出るようになった声で兄に尋ねると、
ここが王宮であり、自分たちは“泥棒”として追われているのかもしれないという。
食べかけのりんごを片手に、必死に出口を探して駆け回る。
その時、一人の衛兵に見つかってしまった。
しかしその衛兵は、僕たちの痩せ細った体と、ボロボロの服、
手に持った食べかけのりんごを見て、小さくため息をついた。
「りんごひとつを、飢えた子どもが盗っただけか……」
彼はそう言って、見逃してくれた。
無事に逃げ出した僕らは、元の道に戻り、残りを二人で分けて食べた。
お腹は空いていたけれど、今までより百倍も元気だった。
⸻
その後、働くために市へ向かった。
行商が会計で客と揉めているところに出くわし、
僕は行商の計算の間違いに気づいて指摘した。
一瞬、怒られるかと思ったが、
意外にも気に入られ、兄が事情を話すと引き取ってもらえることになった。
家は貧しく、学校にも行っていなかったのに、
どうして自分が計算できたのか分からなかった。
兄がこんなにも上手く話すことができるなんて、知らなかった。
⸻
行商との生活は、とても楽しかった。
行商は気さくで、いろんなものを見せ、食べさせてくれた。
兄がものを売り、僕が会計を助けるたび、行商は笑って僕たちの頭をなでた。
多くの国を巡りながら、時は過ぎていった。
またあの燃えるような暑さが戻ってきた頃には、
もうすっかり、行商がいなくても二人だけで商売ができるようになっていた。
⸻
ある時、行商に拾われたあの国に戻ることになった。
王都で商いをしていると、突然、近衛兵に囲まれ、牢に入れられた。
なぜ捕まったのか分からずにいると、
「知恵の実」という宝物の窃盗容疑だと言われた。
それはこの国の王しか食べられない果実。
王がそれを独占して国を治めているという。
もちろん、身に覚えはない。
……だが窓の外を見ると、そこにりんごの果実が見えた。
思い出した。
子供の頃、王宮に入り込み、あの実を食べてしまったことを。
⸻
兄は鉄格子の隙間から手を伸ばし、りんごをひとつ掴んだ。
二つに割って、僕に半分を渡す。
兄は行商時代に聞いた王都の構造を思い出し、
僕は牢と王宮の警備の配置を思い出した。
二人は、誰にも見つかることなく牢を抜け、国境を越えた。
行商のもとへは戻らなかった。
ただ、りんごの香りと手紙を残し、
どこかへ消えていった。
⸻
その後、この国の周辺では、
ある行商が二人の噂を語り歩いているという。
そして――
りんごのような赤い実を模した、半分に割れるおもちゃが出回っている。
子どもたちはこう呼ぶ。
――「自由の実」と。
最後までお読みいただきありがとうございました。
もしよろしければ評価、感想等を一言でもいただけると活動の励みになります。
Xのアカウントもフォローよろしくお願いします。




