気づき始める気持ち
週の半ば、水曜日の昼休み。
私は教室で沙耶、美琴と机を寄せてお弁当を広げていた。
「梨緒、週末はどうするの?」
沙耶が唐揚げをつまみながら、いつものように聞いてくる。
「んー……特に予定はないかな。たぶん、また家でゴロゴロしちゃうと思う」
「ほらまた。動画とか見て終わりでしょ」
美琴が苦笑いして突っ込んでくる。
「……まぁ、そうかも」
私が照れ笑いをすると、隣の美琴が口を挟んだ。
「でも最近の梨緒、よく図書室行ってるよね?」
その一言に、心臓が跳ねた。
そう、確かに私はここ数日、無意識に足を運んでいる。
「え、そうなの? 本なんて読むんだ」
沙耶が目を丸くする。
「ちょ、ちょっとくらいは読むよ……」
言い訳のように笑うけど、なんだか視線をそらしたくなった。
けれど美琴は気づいたようににやりと笑う。
「もしかして、誰かと一緒に?」
「えっ、ち、違うよ!」
慌てて否定したものの、頭に浮かんだのは――水城先輩の横顔だった。
◇
放課後。
鞄を肩にかけながら廊下を歩いていると、窓の外に見覚えのある姿があった。
グラウンド横で後輩に声をかけている、水城先輩だ。
ただそれだけの光景なのに、胸の奥がまた高鳴ってしまう。
「……私、なんでこんなに気になるんだろう」
心の中で呟きながら、窓から視線を外した。
けれど、先輩の姿はずっとまぶたに残っていた。