放課後の会話
火曜日の放課後。
私は授業の疲れを癒すように、図書室へ足を運んだ。
昨日のことが少し気になって、心のどこかでまた先輩に会えるかも、なんて思ってしまう。
棚の前で本を探していると、ふいに声がした。
「立花さん、また来てたんだ」
振り返ると、やっぱりそこには水城先輩がいた。
自然体の笑顔に、胸が一瞬きゅっとなる。
「は、はい……ちょっと読みたい本があって」
「ふふ、昨日の続きかな?」
「えっと……そんな感じです」
先輩は同じ棚から別の本を手に取り、私の横に並んで立った。
その距離が思ったより近くて、息が詰まりそうになる。
◇
机に向かい、しばらくそれぞれ本をめくっていた。
でも、不思議と沈黙が心地いい。
「ねえ、立花さん」
先輩がふいに声を落とす。
「この作家の作品、どこから読んだ?」
「あ、えっと……最初は短編集からで。読みやすくて、気づいたらはまっちゃって」
「同じだ。私も短編集から入ったんだ」
共通点がまた一つ。
ただそれだけなのに、胸の奥がふわっと温かくなる。
先輩は少し考えるように目を細めてから、柔らかく笑った。
「……立花さんとは、なんか気が合いそうだね」
その一言に、頬が熱くなる。
うまく返せなくて、本のページをめくる指先がぎこちなくなった。
◇
帰り道、校門を出てからも先輩の言葉が頭から離れなかった。
気が合いそう――それだけのことなのに、何度も反芻してしまう。
私は、どうしてこんなにドキドキしてるんだろう。
胸の奥で、今までにない感情が少しずつ芽生えているのを感じていた。