なんでもない放課後
金曜日の放課後。
窓の外は西日に照らされて、校舎がやわらかなオレンジ色に染まっていた。
「なあ梨緒、帰ろうぜ」
声をかけてきたのは拓海だった。練習は休みらしく、バスケットボールを片手でくるくる回している。
相変わらず器用だ。
「ごめん、今日は写真部あるんだ」
「あー、そうだったか。文化祭の準備?」
「うん。ポスターに使う写真の整理」
私がそう言うと、拓海は「そっか」とあっさり頷いて、ボールを脇に抱え直した。
少し拍子抜けするほど、彼はいつもあっけらかんとしている。
◇
写真部の部室に入ると、すでに数人の部員が集まっていた。
机の上には印刷した写真が並べられ、どれを文化祭の展示に使うかで議論が盛り上がっている。
「梨緒、こっち見て!」
声をかけてきたのは同じクラスで友達の 明里。
彼女は写真部の活動に加えて、女子バスケ部のマネージャーもやっている。
「これ!先輩たち、すごくかっこよく映ってない?」
明里が差し出した数枚の写真の中に、自然と視線が吸い寄せられた。
ボールを追う横顔。髪が揺れて、真剣なまなざし。
――水城遥先輩。
「……うん。すごくいいと思う」
思わず口に出てしまい、慌てて他の写真へと目を移した。
けれど、頭の中からあの横顔は消えてくれない。
◇
部活を終えて校門を出ると、拓海が待っていた。
「おつかれ。ほら、荷物持つよ」
当然のように私のカメラバッグを肩にかける。
「待っててくれたんだ。ありがと」
「文化祭、楽しみだな。俺の試合の写真も撮ってくれよ」
「……考えとく」
笑って答えながらも、胸の奥は少しざわついていた。
――なんでだろう。
拓海といると安心するのに、あの先輩の顔が頭から離れない。
なんでもないはずの放課後が、少しだけ違って感じられた。