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先輩という存在

放課後。

 私は写真部のカメラを肩にかけて、体育館へ向かっていた。文化祭パンフレット用の写真を集める係になったせいで、ここ最近は部活の半分以上を取材に費やしている。


 体育館のドアを開けると、男子バスケ部の練習が始まっていた。

 コートの中央では拓海がドリブルをしていて、汗が飛び散るのがライトに反射して光った。昨日の試合の疲れを残しているはずなのに、彼の動きは軽やかで、真剣な表情はやっぱりかっこいい。


「立花、今日も来てるのか」

 ベンチに座っていたマネージャーの先輩が声をかけてくる。

「はい、文化祭のパンフレット用の写真を撮りに……」

「助かるよ。うち、いい写真なかなか撮れないからさ」


 私は軽く会釈をして、観覧席に上がる。

 シャッターを押すたび、拓海の動きが一瞬だけ切り取られる。集中して撮っているうちに、時間はあっという間に過ぎていった。


 ふと、視界の端に見慣れない姿が映る。

 体育館の隅で腕を組んでいたのは――水城遥先輩だった。

 二年生の女子バスケ部キャプテン。練習用のTシャツに短パン姿、立っているだけで空気が引き締まるような存在感がある。


 拓海がシュートを決めると、先輩は小さく顎を引いてうなずいた。

 ただそれだけの仕草なのに、不思議と目を奪われてしまう。


「……やっぱ、絵になるな」

 つい小さくつぶやいてしまう。

 カメラを構えようか迷ったが、パンフレットに載せる写真には関係ないし、なぜか撮ってはいけないような気もした。



 練習が終わり、拓海と駅へ向かう。

「今日、水城先輩が体育館に来てたよね」

「ん? ああ、遥先輩な。うちの部活の顧問と仲いいんだよ。アドバイスくれることもあるし」

「へえ……そうなんだ」


 私はなるべく何でもないふうに答えた。

 でも拓海は気づいていない。あの短い時間で、どれだけ先輩の姿が印象に残っているのかに。


「梨緒って、遥先輩みたいなタイプ好きそうだよな」

「えっ」

「いや、なんかさ。背高くて頼りがいある人。あ、俺じゃ物足りなかったり?」

「なにそれ。変なこと言わないで」


 笑い飛ばしたけれど、胸の奥が少しだけざわついた。

 ――タイプかどうかなんて、自分でもよく分からない。

 でも確かに「見た目はカッコいいな」って思った。



 その夜、部屋で今日の写真を整理していると、一枚の中に小さなシルエットが写り込んでいるのに気づいた。

 コートの奥、腕を組んで選手たちを見つめる水城先輩の姿。

 ピントは拓海に合っているから、先輩はぼやけている。

 なのにどうしてだろう――写真を見返すたび、ぼやけた姿に自然と目が行ってしまう。


 それは恋でも憧れでもない。

 ただ「気になる存在」として、水城遥先輩の輪郭が心の中に刻まれはじめていた。


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