雑煮を食べ終え
雑煮を食べ終え、日が高くなる頃、俺たち四人は重忠さんの家へ新年の挨拶に向かった。
梅菊さんに挨拶をすると、奥の広間へと案内された。
そこは、新年を祝う酒盛りの宴の席になっていた。
重忠さんをはじめ、新右衛門さんや漁師仲間の人たちが盃を交わし、楽しげに語り合っていた。
彼らから酒をふるまわれたが、白い濁り酒は苦手なので、代わりに小六に飲んでもらった。
すると今度は蜂蜜酒を勧められた。
それは俺が渡した蜂蜜から作られたものだという。
甘い香りが広がり、口に含むと蜂蜜の特有の甘さと、発酵によるほのかな酸味が感じられる。
三人にも蜂蜜酒がふるまわれ、少しだけ口をつけた。
彼らには好評のようで、小六は赤らんだ顔で「今度は家でも作ろう」と笑った。
俺たちは問丸の和江さんの店、指物師の源太さんの工房へと挨拶回りを続けた。
問丸には甚平さんもおり、預けていた蜂蜜と椎茸は鎌倉へ無事に卸されたとのこと。
次の機会には卸先から集金する予定だ。
どちらの商品も高値で取引され、思いのほか大きな額になったと甚平さんが教えてくれた。
源太さんの工房へ行くと、そこでも宴が行われていた。
源太さん、船大工、それに鍛冶職人の三人が陽気に酒を酌み交わしていた。
俺は源太さんに新年の挨拶をし、蜂の巣箱の追加発注を改めてお願いした。
港の通りは、新年を祝う楽し気な雰囲気に満たされていた。
母親と手を繋ぐ幼子、父親に肩車された子供。
家族と楽しそうに過ごす子供たちの姿が、あちこちで見受けられる。
そんな様子を眺めながら、花里はどこか寂しげだった。
俺は少し肩を落とした彼女にそっと手を添え、「さあ、俺たちの家に帰ろう」。
その言葉に、花里はにっこりと笑みを浮かべ、小さく頷いた。
真之介は「花、歌いながら家に帰ろう」と言いながら、彼女の手を握った。
「おっと真之介。童謡『七つの子』はなしだ。」俺は素早く制する。
小六が花里を元気づけるように、『一休さん』の歌を大きな声で歌い始めた。
真之介も花里も小六に合わせて歌い出す。
俺たちは通りの端ではなく、堂々と真ん中を歩きながら家路についた。