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ちょいと偉人に会ってくる  作者: 鈴木ヒロオ
それぞれの道
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三人にお使いを頼むことにした

 三人にお使いを頼むことにした。


 十個の小さな陶器の壺に蜂蜜を分けて、蓋をして藁縄で縛った。


 この蜂蜜は、普段お世話になっている方々に届けてもらう予定だ。


 届け先は、重忠さんの家族や新右衛門さん、問丸の和江さん、指物師の源太さん、それに普段から魚や野菜を分けてくれる漁師の人たちも含まれる。


 梅菊さんは花里の訪問を喜んでくれるだろう。


 また、源太さんには巣箱の追加発注をお願いしたい。


 この機会を通じて、彼ら三人にとって、この村で生きていくための基盤を築けるようになればと期待している。


 俺は善が修行する清澄寺と、恩人の一人である仁右衛門さんへ舟で蜂蜜を届けることにした。


 仁右衛門さんとは、取り調べがあった日以来、会えていなかった。


 あの時のお礼と長い間のご無沙汰を謝りたい。


 清澄寺では、一昨日に鍋で煮て完成した蜜蝋を使ってローソクを作る方法について助言を得たいと思っている。



 

 久しぶりに会う仁右衛門さんは、俺の訪問を喜んでくれた。


 通された大広間で仁右衛門さんと対座すると、俺の前には薄茶が置かれた。


 それを頂くと、口の中に新緑の苦味が最初に走り、後にふわりとした甘みが追いかけてきた。


 その様子を見ていた仁右衛門さんが「茶は好きですか」と尋ねたので、「祖母が好きで毎朝一緒に飲んでいました」と答えた。


 少し驚いたような仁右衛門さんだったが、自分も最近は茶に凝り、自ら茶臼を回して抹茶を挽くという。


 貴族や武士の間では、茶の文化が広がりだしているということだった。


 それから、俺は仁右衛門さんに蜂蜜を渡した。


 彼はそれを受け取ると、壺の封を切り、中を確かめても良いかと尋ねた。


 遠慮なくどうぞと答えると、彼は腰に差していた小刀で藁縄を切り、


 その小刀の先で蜂蜜を掬い、小指で舐めた。


 それから彼は、貴重な蜂蜜をこんなに貰ってよいのかと聞いた。


 壺にはたっぷり一キロほどの蜂蜜が入っている。


 俺は遠慮なくどうぞと答え、薄茶に入れて飲んでも美味しいと思いますよと助言した。


 仁右衛門さんは笑い、俺もつられて笑った。


 帰り際、門で見送る仁右衛門さんからお土産に小さな木箱に分けられた抹茶を持たされた。


 


 初秋の澄んだ空は高く、穏やかな風が海を柔らかく揺らしている。


 季節の移ろいを感じさせ、涼しさが増してくる日々に、みんなで飲む抹茶はどんな味わいなのだろう。







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