強い日差しが木々を透かす
強い日差しが木々を透かす。
梢を揺らす風は、斜影を生み出し、終わりなき物語の影絵を描き続ける。
そして、影と光が紡がれ、蝉の音を包んで、俺の家まで届けてくれる。
その日、俺は真之介と畑で雑草を抜いていた。
真之介は毎日休むことなく草を抜き、農作業に励んでいる。
それでも夏草の勢いは、夏の日差しと同じくらい強かった。
そんな中、久しぶりに新右衛門さんが現れた。
訪れた彼を家の中へ招き入れると、花里が温かい麦茶を出してくれた。
新右衛門さんは喉を潤した後、善について尋ねてきた。
彼によれば、ここ三週間善に会えていないという。
寺へ訪ねても姿はなく、善の兄弟子たちに聞いても、「水修行をしてくる」とだけ言い残し、弁当と水筒を腰に括り付けて、朝早くから出かけているらしい。
どこへ行くのかは、誰も知らないようだ。
俺も桟橋に行っても善の姿を見ることはなく、家にも訪ねてこない。
ここ三週間、俺は善に会っていないと伝えると、彼は「どこへ行ったのだろう」と首を傾げながら帰っていった。
翌日、海の方向には入道雲が立ち上がり、風が強かった。
少し天候が不安定だったが、俺が漂着した砂浜へ行くと、そこにサーフボードで波に乗る善の姿があった。
強い日差しが水しぶきを透かす。
海面を走る風は、波影を生み出し、終わりなき物語の波絵を描き続ける。
そして、風と海が練られて、潮騒の音となり、岸に立つ俺まで届けてくれる。
善は波を支配し、自由自在に乗りこなしていた。
波の上を、そして波の底を、彼は縦横無尽に駆け抜ける。
彼は岸辺に立つ俺に気づくと、波を解放し俺のところにやってきた。
日焼けで真っ黒になり、引き締まった身体は、どこか逞しく見える。
「善、すごく上達したじゃないか。俺より断然上手じゃないか」と褒めると、嬉しそうに笑った。
新右衛門さんが探していたことを伝えると、もう少しサーフィンをして、彼のところへ顔を出すという。
天候が崩れ始め、風が強くなり波も荒れてきた。
それでも善はボードを抱え、再び海へ戻っていった。
俺は砂浜に腰を下ろし、彼の姿を見守った。
善は波の斜面を上下に動きながら加速する「アップスアンドダウンズ」、波のトップでターンする「オフザリップ」を難なくこなしていた。
しかし、波の肩に戻るための「カットバック」を試みたその時、予期せぬ突風にボードの先端が煽られて、善は派手にひっくり返り、海へ投げ出された。
ボードは高く舞い上がり、足に結んでいたリーシュコードが解けてしまった。
そして、ボードは一気に沖へ流された。
善は悔しそうな表情を浮かべながら、手ぶらで岸に戻ってきた。
はるか沖に見えるボードは小さくなり攫われていく。
彼は体を固くして、じっとその海を見つめる。
俺はその肩に手を置いて、一言声をかけた。
「善、今年の夏は楽しかったな。」
すると彼の肩の力がスッと抜け、目を醒ましたように「ああ、本当に楽しかった」と満足そうに答えた。
夏と共にサーフボードも俺たちから旅立とうとしている。