善と約束を交わしてから
善と約束を交わしてから一週間後、指物師の源太さんの工房でついにそれが完成した。
ラップバトルの翌日から、俺は毎日のように店に通い、源太さんに細かい指示を出しながら作業を見守ってきた。
そして、ようやくサーフボードが完成したのだ。
このボードは廃材の杉を使用し、中を空洞にくり抜いて作られている。
釘を一切使わず、板を精巧にはめ込む指物師の技術が光っているのが特徴だ。
さらに、三枚のフィンも同様に匠の技でしっかりと組み込まれている。
最後の工程として、人とボードを繋ぐ「リーシュコード」と呼ばれる紐を通すため、ボードの後部に穴を開けてもらった。
このリーシュコードは、今日のために俺が自らゲルで作り上げたものだ。
完成したボードは少し厚みがあるが、仕上がりには大いに満足している。
源太さんも、蜂の巣箱に続いてまた奇妙なものを作らされたせいなのか、あるいは満足のいく仕事ができた喜びからなのか、奇妙な完成品を眺めて笑っている。
そこへ、善が息を切らせてやって来た。
おそらく、今日という日を心待ちにしていたのだろう。
俺がボードを見せると、善は「これで、何をするんだ?」と興奮気味に尋ねてきた。
俺は「まずはこれを海へ持っていこう。説明はそれからだ」と言い、源太さんに礼を告げて店を後にした。
善にはウェットスーツの入った麻袋を持たせ、俺はボードをわきに抱え、俺が流れ着いた砂浜を目指して歩いた。
到着すると、俺はウェットスーツに着替え、柔軟運動をしながら善に尋ねた。
「ところで善、おまえは泳げるのか?」
すると善は、「俺は漁師の息子だぞ。一日中でも泳いでいられるぞ」と自信満々に答えた。
俺は安心して、まずは手本を見せることにした。
海にボードを浮かべ、パドリングで沖へ漕ぎ出す。
ある程度沖に出ると浜辺を振り返り、善に手を振った。
善もこちらに向かって手を振り返してくれる。
早速、形の整った波が来たのでそれに乗る。
ボードはバランスがよく、とても扱いやすい。
改めて、源太さんの腕前に感心した。
浜辺に目をやると、善が両手を回して何かを叫んでいる。
その興奮が遠目にもはっきり伝わってきた。
波から降りて浜に戻ると、善は俺からボードを奪い、そのまま海へ漕ぎ出そうとする。
興奮冷めやらぬ善を何とか落ち着かせ、最低限の基本を教えることにした。
まずは、パドリングの基本だ。
背筋を伸ばし、胸を浮かせながら腕をしっかり動かして水をかく正しい姿勢を伝えた。
次にテイクオフの動作。
胸の下に手をついて上体を持ち上げ、後ろ足から前足へとスムーズに立ち上がる練習をさせた。
落ち着かない善だったが、俺は砂浜で何度も練習させ、感覚を掴ませた。
最後に波待ちの姿勢だ。
ボードの中央に座り、重心を低く保ちながら波を観察し、適した波に乗ることを説明した。
話を終えた途端、善はボードを抱えて飛び出すように海へ突っ込んでいった。