善と再会したのは
善と再会したのは、桟橋で別れてから二カ月足らずだったが、彼は以前よりも大人びた雰囲気をまとい、黒目勝ちの優しい瞳には、力強く深い色彩が加わっていた。
「やあ、史郎」「よう、善」
俺たち五人は家に入り、互いの近況について語り合った。
善は、入門した清澄寺で兄弟子の浄顕房と義浄房から、一般教養と仏典を中心に読み書きを学び始めたという。
寺には多くの仏典や書籍が揃っており、善は早朝から文机に向かい、それらの文献を広げると夢中になってしまう。
気がつけば日が暮れ、字が見えなくなって初めてそのことに気づくほどだという。
雨が続く日々の中でも、雨の合間には新右衛門さんが馬に乗って訪ねてきたらしい。
道理で最近、新右衛門さんの姿を見かけないわけだ。
もっとも、彼は俺の世話役であることをすっかり忘れているのかもしれない。
そんな話の最中、善が突然言った。
「史郎、ずるいじゃないか!」
驚いて理由を尋ねると、それは蜂の捕獲や虫眼鏡の話だった。
俺たち三人が山中に入っている間に、花里から事の顛末を聞いたという。
そして、実際に花里が虫眼鏡で火を起こす様子を目にしたとのことだった。
善は、それらの出来事に立ち会えなかったことが悔しいらしい。
善は続けて言う。
「今晩は泊まっていくぞ。師匠の道善房には許可を得ている。話を最初から聞かせろ!」
あとは、俺ではなく小六が鼻を膨らませながら、自慢げに語り始めた。
自分が巣箱を作り設置し、蜂の捕獲に成功したこと。
普段から着ている防護服の話。
そして、虫眼鏡で自分の手を焼いたことを身振り手振りを交えて語ってくれた。
そのたびに善は悔しそうな顔をして、俺を睨みつけていた。
最後には、「何か面白そうなことをするときは必ず参加させる」という約束をさせられた。
「俺も三日に一度は山の寺から下りてくるが、面白いことをするときは待っていろ」と念を押された。
そんな善の様子を見て、小六、真之介、花里が笑っている。
彼らを見て俺もつられて笑う。
悔しそうな顔をした善も、いつの間にか笑っている。
夏もすぐそばまで来ている。