表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちょいと偉人に会ってくる  作者: 鈴木ヒロオ
それぞれの道
63/96

山には常緑樹と落葉樹

 山には常緑樹と落葉樹が広がり、色濃い葉で包まれている。


 葉から漂う清涼な香りが山全体を聖域のように包み込み、夏を前にして、山、木々、葉が三位一体となって生き生きと息づいている。


 

 梅雨入り前に家の裏の柿の木の下に設置した巣箱二基には、蜂が営巣した様子はなかった。


 しかし、崖の上にある蜂の巣の近くに置いた巣箱では、蜂の出入りを確認できた。


 防護服に身を固め、顔には柿渋染めの布を巻き、巣門箱の底に取り付けられているスライド式のはめ板をそっと外す。


 そして、巣箱を下から覗き込むと、中では蜜蜂が小さな巣を作っていた。


 その光景を見た瞬間、嬉しさのあまり、思わず声を上げそうになった。


 早速、小六に手伝ってもらい、二段だった巣箱に継ぎ箱を重ねて六段にした。


 箱の継ぎ目には、ゲル製の伸縮性バンドを巻き、箱がずれないように固定した。


 さらに麻縄で巣箱全体を地面にしっかりと固定して倒れないようにした。


 「どうだ、小六。蜂の捕獲に成功したぞ!明日は山の各所に設置した巣箱を確認しに行こう」と自慢げに話しかけ、彼に目を向けると、蜂の捕獲に成功したことについて感心している様子だった。


 そして翌日、俺たちは山中の巣箱を確認するために向かった。


 俺、小六、真之介の三人は揃いの防護服を着込み、まだ少しぬかるみの残る山中を慎重に歩いた。


 最も期待していたのは、蜂の巣近くに設置した二カ所の巣箱だった。


 そのうちの一つで営巣を確認し、早速そこでも継ぎ箱を行った。


 一方、蜂が入らなかった巣箱は全て撤収することにした。


 設置した十カ所の巣箱のうち三カ所で営巣を確認できたので、十分な成果だと感じた。


 帰り道、俺は嬉しさを抑えきれず、二人に話しかけた。


 「これで秋には蜂蜜が取れるぞ!楽しみだな。どうする、小六、真之介?」


 すると小六は、「史郎、まさか蜂蜜を全部食べるつもりじゃないだろうな。蜂蜜は薬として高く売れるんだぞ」と教えてくれた。


 真之介にも尋ねると、蜂蜜を食べたことはなく、仮にあったとしても、守護や地頭、荘園の貴族から献上品として取られるだけだという。


 甘い物といえば、先日甚平さんにもらった干し柿や、小六に分けてもらったアケビがせいぜいだったらしい。


 この時代の格差社会の厳しさを痛感し、心が痛んだ俺は真之介に言葉をかけた。


 「蜂蜜が取れたら、花里にもたくさん食べさせような」


 その言葉に、真之介はにっこりとほほ笑み、頷いてくれた。


 家に帰ると、花里が出迎えてくれ、そして寺で修行を続けている善が久しぶりに家に訪れていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ