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ちょいと偉人に会ってくる  作者: 鈴木ヒロオ
それぞれの道
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ゆけゆけハッチ

 ♪ゆけゆけハッチ みつばちハッチ

  とべとべハッチ みなしごハッチ

  姿やさしい もんしろ蝶々

  おどけバッタに テント虫♪

 

 思わず鼻歌が口をついて出る。


 俺がよく歌う日本の歌といえば、アメリカに住んでいた頃、父が聴いていた昭和の歌や、その当時アニメオタクだった友人ジャックから借りたビデオで見た、古い昭和アニメが中心だ。


 その中でも「昆虫物語 みなしごハッチ」は心に深く刻まれている。


 それは内容があまりにも残酷で、トラウマになりそうだった。


 そのせいで、一時期はハエを殺すことができなくなった。


 今ではもう、そんな躊躇もない。俺の野望のために蜂の捕獲が最優先だ。


 話好きで世話焼き、甘いもの好きに酒好き。そして女性大好きな次郎さん。


 そんな次郎さんから養蜂の技術を学び、俺は彼の一番弟子であることを自負している。


 昨日、問丸から帰宅後、小六を連れて蜜蜂の棲みかを確かめに行った。


 家の裏手、小さな崖の上にある森の木の洞に、確かに蜜蜂が巣を作っていたのだ。


 さらに小六によれば、家から少し離れた山の南側にも巣があり、探せば他にも見つかりそうだという。


 その情報を元に計画を立て、今朝に至る。


 巣箱は、港通りにある指物師に依頼することに決めた。


 木材加工に興味がある小六が、そこの場所を知っていたのだ。


 小六によれば、この職人は舟の修理や補修も手掛けているとのことだった。


 昨日借りた荷車を引き、小六に案内を任せて家を出発した。


 自然と足取りが軽くなり、また鼻歌が漏れてしまう。


 ♪ ゆけゆけハッチ みつばちハッチ

  とべとべハッチ みなしごハッチ

  こわいやつだよ カマキリ ムカデ

  にくいやつだよ スズメ蜂♪


 港通りの裏手にある指物師の店は、店と作業場を兼ねているようだった。


 開いた戸の向こうで、若い指物師が作業している姿が見える。


 俺たちは挨拶をし、中に入ると、その職人は俺のことを知っていたようで、 愛想よく迎えてくれた。


 俺は蜂の巣箱だとは言わず、作ってほしいものを紙に図を描いて伝えた。


 屋根、上蓋、巣箱、巣門箱、そして乗せる台などの寸法を示し、蜂が出入りする巣門の高さについては、特に慎重に伝えた。


 職人は首を傾げながらも笑顔で応じてくれた。


 「いかなる御用途にて用いらるるか不明なる、いと奇妙なる御注文にて候が、造り奉ることは簡便にて候」と。


 また、廃材や古い木材を使って作るように頼んだ。


 蜂は新しい木材の匂いを好まないためだ。


 職人は再び笑いながら、「いと奇妙なる御注文にて候」と答え、裏手の廃材が積まれている場所へ案内してくれた。


 俺は「ぜひこれで」とお願いし、さらに木地師としての経験がある小六も手伝わせてほしいと提案した。


 職人は快く承諾してくれ、明日から作業が始まることになった。


 これで準備は整った。


 残るは巣箱の設置場所の整地作業だ。


 舟があれば、作業は簡単に進むだろう。


 ♪ ゆけゆけハッチ みつばちハッチ

  とべとべハッチ みなしごハッチ

  草をまくらに うたたねすれば

  おけら コオロギ 子守歌♪


 明日からが楽しみだ。


 草枕も子守歌もなくても、きっと良い夢が見られるだろう。




昆虫物語 みなしごハッチの第23話「ガラスの中のママ」はトラウマになります。

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