若竹のいと清らなる香
若竹のいと清らなる香 土より立ち昇りて
春の息吹を そと告ぐるものなり
風は潮の香を運びつつ 森と海 縁を結びぬ
静けさのうちに 調和は紡がれ
天地の語らひ 絶ゆることなし
「今日は筍狩りだ」と少し寝不足で興奮気味の俺がいる。
昨日、小六を舟に案内した後、窪地の先にある竹林に分け入った。
少し急斜面の場所だったが、小六が「筍の旬だ」と言うので五人で行ってみた。
彼の言う通り、竹林のあちこちの土から筍が顔を出していた。
家へ戻り、明日の筍狩りのために準備を進めることにした。
山に詳しい小六を先頭に、みんなで役割分担を行った。
まず、真之介には米ぬかを手に入れるために銭を持たせ、水車小屋へ走らせた。
善には、筍を茹でるための大鍋を梅菊さんから借りてくることを頼んだ。
俺は、小六と花里の三人で、港の通りにある店棚へ新しい筵を買いに出かけた。
これは、茹でた筍を乾燥させ、干し筍を作るためのものだ。
小六によれば「大鍋は数が多ければ多いほど良い」とのことだったので、問丸を訪ねて相談することにした。
いつもは若い男性が対応してくれるが、今日は中年の女性が奥から出てきて対応してくれた。
彼女は「我、和江と申す者にござ候。史郎殿におかれましては、日々の御引立、誠にありがたき仕合に存じ奉り候」と、とても丁寧な挨拶をしてくれた。
俺が「店主ですか」と尋ねると、彼女は店主の妻であると答えた。
店の主人は甚平と言い、ほとんど家にはおらず、帆船で物資の輸送や商品の売買をしているという。
筍を茹でるため、できるだけ大きな鍋が欲しいと頼んだ。
しかし、あいにく在庫はなかった。
聞けば、そういう鍋は定期市にやってくる鋳物師に頼むのが良いとのことだった。
また「この通りの店棚には小さな鍋は置いていても、大鍋を置いているところはまずないだろう」とも教えてくれた。
しかし、代わりに、店で使っている大鍋を小さい荷車と一緒に借りることができた。
俺たちは和江さんにお礼を言って問丸を出た。
その後、通りにある店棚の一つで新しい筵を十枚ほど購入し、家へと戻った。
家に着くと、善と一緒に新右衛門がいた。
善が彼の家の大鍋も借りに行ったようで、わざわざそれを背負って持ってきてくれたらしい。
俺が礼を言うと新右衛門さんは「筍狩り、楽しからずや。明日晴れんことを願ふ」と言い、あっさり善と一緒に帰って行った。
その晩、小六は当然のように家で飯を食い、食い終わると筵をひいて寝る準備をしていた。
俺は少々呆れながらも何も言わず舟へと帰った。
「明日は筍狩りだ」と興奮気味で少し寝付けない俺がいる。