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ちょいと偉人に会ってくる  作者: 鈴木ヒロオ
それぞれの道
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小六を舟に案内するため

 小六を舟に案内するため、家を出た。


 先頭には善が歩き、その後ろに小六、真之介、花里が続く。


 俺は一番後ろからついていく。


 かつて森だった畑の先は、伐採と開墾が進み、柿や栗の木々だけが残されている。


 その果樹の向こうには岩壁が連なり、崖となっているため、これ以上畑を広げることはできなかった。


 岩壁の右側、北の方へ少し回り込むと小さな窪地があり、そこに舟を隠していた。


 その場所はかつて水源だったらしく、砂利に覆われ、周囲を木々が囲んでいるため、隠し場所としては最適だ。

 

 「こんな場所に何があるんだ?」というように、小六はやや不安げな表情をしている。


 まず俺が一人で舟に乗り込み、操縦席に座った。


 正面には、善、小六、真之介、花里の四人が見える。


 迷彩モードを解除すると、隠されていた舟の姿が突然現れる。


 その瞬間、驚いた小六は目を大きく見開き、尻もちをついた。


 俺の心の小さな悪魔が心のひだから顔を覗かせている。


 四人が舟に乗り込んできた。


 小六は一番後ろから、少しおどおどしながら入ってくる。


 心配した花里が振り返り、優しく声をかけた「小六、怖がらなくても大丈夫だよ」


 「お、おう!怖いわけじゃないぞ。ただ少し驚いただけだ!」と小六は裏返った声で答える。


 俺の心の小さな悪魔が少しだけ大きくなり、口角を上げた。


 何もない銀色の操縦室をしばらく見回していた小六は、大したことがない風を装っているが、その仕草からして動揺しているのは明らかだ。


 ---フフ、本番はこれからですよ。---


 俺の心の小さな悪魔がすくすく育ち、儀式の準備を始める。


 善が奥の部屋を案内すると、小六の目は点になり、口をポカンと開けた。


 ---小六よ、なかなか良い表情をするじゃないか。---


 俺の心の悪魔が、儀式にふさわしい音楽を求めている。


 皆で部屋に入り、小六に音楽を聴かせるため、俺は並んでいるレコードから適当に一枚を選び取った。


 そのタイトルは「ラフマニノフ指揮『死の島』作品29」


 ---うん、タイトルからして、なかなかいい選択だな。---


 蓄音機から流れる交響詩は、陰影がさざ波のように次々と押し寄せ、静かに足元から濡らしていくような作品だった。


 それはまるで、これから小六に降りかかる運命を予告するかのような演奏だった。


 俺の心の悪魔は祭壇の前に立ち、静かに生贄を待っている。



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