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俺は盤上の香車だった

 俺は盤上の香車だった。


 善と義尚との対局において、盤の角で投了するまで一歩も動かない香車だった。


 俺は悪手を繰り返し、いよいよ人生が詰んだと思ったが、待ったなしの局面で、善の妙手によって救われた。



 

 取り調べは、何が何だか分からないまま、俺を置き去りにして終わった。


 俺は誤解と勘違いに加え、この時代に生きる人々の逞しい想像力と、トオルをはるかに超える妄想に救われた。


 今後、どうなるかは分からないが、ひとまず安心してもよいのだろう。


 先ほどまで緊張感に満ちていた大広間の空気は和らぎ、役人たちも、それぞれグループを作り仲間内で話をしていた。


 北条有時は深刻な顔をして、義尚を含む僧侶たちと何やら話し込んでいた。


 俺も極度の緊張から解放され、強張った首の辺りを揉みほぐしながら、善と新右衛門さんと共に、今日の無事を喜んでいた。


 新右衛門さんは善の鋭い観察力に感心し、何度も頷きながら称賛していた。


 善は取り調べが終わった後に出された饅頭を、無邪気な顔で夢中になって食べていた。


 そんな様子の視線の先に、僧侶たちと話している有時と目が合った。


 俺は首に手をあてたまま、もう一方の手を上げて愛想笑いをした。


 すると、有時は驚いたような表情で慌てて大広間から出ていった。


 残された僧侶が、俺たちのところに近づいてきた。


 義尚と高弁は機知に富んだ善を褒め、共に鎌倉へ行くことを提案した。


 善は「俺は史郎のそばにいるほうが面白いから」と即座に断った。


 その代わりに二人の僧侶に比べれば少し泥臭い道善房が「これも仏の縁だ」と言いながら、自らが修行する寺へ遊びに来るよう誘っていた。


 最後に義尚が善に向かって言った。


「善日よ、今回の件はおまえのおかげで謎が解けた。感謝するぞ」


 すると善は姿勢を正して「謎は解けましたが、銅銭の真の意味を、義尚様は我々にお話しされておりません」と言った。


 義尚は細い目をさらに細め「ほう、銅銭に秘められた意味があると言うか。話してみよ」と促した。


 善は少し声を潜めて「史郎の銅銭には、今の朝廷や幕府に対して、己は常に同一線上にある。つまり同線(銅銭)にあるとの気概が込められています」


 無言の義尚に対して善は挑戦的に続けた。


「将棋に例えるなら、今の史郎はただの歩ですが、やがてと金に成り、玉将を取る日が来るかもしれません」と。


 義尚が呵呵と笑い、俺に目を向けて「将棋の格言の中には『開戦は歩の突き捨てから』とある。よくよく捨て駒にならぬよう気を付けなされ」と言い残し、二人の僧侶と共に大広間から退出した。


 ---あの、すみません。俺は平和に静かに暮らしたいだけですから---



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