普段は寡黙で、自分のことをほとんど話さないサム
普段は寡黙で、自分のことをほとんど話さないサムが、ゆっくりと自身の出自について語り始めた。
「ピンクシティ」と呼ばれるジャイプールで、ほとんど目が見えない両親のもとにスラム街で生まれた。
父は毎日、ホテル前の歩道に順序良くしゃがみ込む行列の中にいた。
ホテルから出る残飯をもらうためである。
母はサムを連れて物乞いやゴミ拾いをし、食べるためだけに日々を過ごしてきたという。
「知っているかい? 人は汚れがひどくなると、肌も服も区別がつかない灰色になってしまうんだ」と彼は語った。
そんな悲惨な状況に転機が訪れた。
ある慈善団体がサムを見つけ、養子としてアメリカに渡る提案をしたのだ。
両親は迷うことなくその提案を受け入れた。
それはまるで、底なしの沼に沈む二人が必死に子供を持ち上げるような思いだった。
家族が過ごす最後の日、町で行われていた象のパレードを三人で見に行った。
団体から三人へ新しい服とわずかなお金が渡された。
華やかに飾られた町を、サムは両親と手を繋いで歩いた。
初めて露店で買ったお菓子を口にした。
父親が露店で象の写真を買い、サムに「今日の記念だ」と手渡した。
二人には見えない祭りであったが、それでも連れてきてくれた。
そんなサムの気持ちを察したのか、母親がサムの頭を撫でながら話した。
「小さい子供の頃に、父さんも母さんも見えないけれど、象を触ったことがあるんだよ。本当に大きくて生き物とは信じられなかったよ」
父親が笑いながら続けた「その象のことで母さんとは、ちょっとした口論になったんだよ」
それを聞いて、母親も懐かしむように笑っていた。
そして、母親はサムを強く抱きしめながら耳元で囁いた「いつか必ずもう一度、三人で象を見に来ようね。それを信じて、信じて生きていくからね」
その後、両親は慈善団体の施設に6歳のサムを託し、スラムへ帰っていった。
「あの日は、たぶん一生で一番楽しくて、一番悲しい日なんだ」
そう語り終えると、サムは寂しい目をして笑っていた。
---あの、すみません。重すぎて取り扱いに困るのですが---
「サム、どうしてそんな大切な写真を俺にくれるんだい?」
「大王よ、ジャックが言っていたじゃないか、これから冒険へ出かけるんだろ。だから、俺が救えなかった、俺の両親を救ってほしいんだ!頼んだよ」
そう言うと、今度はホッとした表情で笑っていた。