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食事を終え、日が暮れると

 食事を終え、日が暮れると、あとは寝るだけだった。


 善に案内された小さな部屋には、一枚の畳が敷かれている。


 「何かあったら呼んでくれ。俺は広間で寝ている。」


 「分かった。ありがとう。」


 俺が拳を突き出すと、彼は拳を合わせて部屋を出て行った。


 畳の上に横たわると、一定のリズムで鳴く虫の声が耳に入ってきた。


 その心地よい響きに誘われ、いつの間にか眠りに落ち、夢の中にいた。


 そこは濃い霧に包まれた場所で、自分が立っているのか座っているのかすら分からない。


 それが遠い過去なのか未来なのかも判断できず、時間の感覚も掴めなかった。


 目の前に白い袈裟けさまとった僧侶と白髪の少年が現れた。


 その顔や姿はぼんやりとしていて思い出せない。


 ただ、夢の中であるにもかかわらず、お香の香りだけは鮮明な記憶として残っている。


 彼らと大切な話を交わしたような気がするが、その内容は覚えていなかった。


 早朝、目を覚ますと、目尻には涙の跡が残っていたが、不思議と心は軽やかだった。


 少しだけ、この時代で生きていく覚悟ができた気がした。


 朝食を終えた頃、重忠さんが刀を携えた若い侍を連れて帰ってきた。


「是又新右衛門と申し(そうろう)。地頭より、村の治安をお任せに候。地頭代にて候。」


 ---是又新右衛門と申します。地頭から村の治安を任されております。地頭代です。---


 紺色の直垂(ひたたれ)を着て烏帽子(えぼし)をかぶった新右衛門さんから、簡単な質問を受け、それに答えると、「明日は大網主の屋敷へ相談に行くので同行せよ」と告げられた。


 すでに大網主には十円玉が渡され、事情の説明は済んでいるとのことだった。


 俺が了承すると、新右衛門さんは「明日の朝に迎えに来る」と告げ、帰って行った。


 その夜も泊まるように重忠さんは強く勧めてくれたが、舟のことがどうしても気になっていた俺は、「浜で夜を過ごします」と丁寧に断った。


 重忠さんは俺のためにわらで編んだむしろを用意してくれ、それを砂浜に敷いて使えと言ってくれた。


 また、梅菊さんは食事の心配をしてくれて、竹の皮に包んだ二食分の弁当と竹の水筒、さらに着替えの着物を白い麻布に包んで手渡してくれた。


 俺は深々と頭を下げ、感謝を伝えた。


 心配してくれる梅菊さんの瞳は黒目がちで慈悲深く、善の瞳によく似ていた。







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