さらに部屋を観察すると
さらに部屋を観察すると、出入口から奥の壁中央、蓄音機の左側に、小さな温泉マークとトイレのマークを発見した。
触れると、壁の向こうに風呂とトイレの部屋が現れる。
ピクトグラムは文字、あるいは言語扱いなのだろうか。
風呂場には脱衣所があり、猫足のバスタブにシャワー水栓が付いている。
トイレは近づくと自動で蓋が開き、温水洗浄便座には温風乾燥機能が搭載されていて、日本語での表示だった。
「史郎、この白い桶はなんだ?ここで顔でも洗うのか?」と善が尋ねる。
俺は座り方を教え、ボタン操作を説明して、実際に使わせてみた。
しばらくして善は呆けた表情で出てきて言った。
「なんか、具合がいいな。これからちょくちょく使わせてもらうぞ。」
これで砂浜や岩陰で用を足し、海水で洗う必要がなくなり、俺は安心した。
操縦室へ戻り、座席に座りハンドルを操作して舟を洞窟から出し、機能テストを開始した。
狭い砂浜を大きく円を描くように操縦すると、地面から少し浮いた状態で自動車と同等のスピードを出すことができた。
次にハンドルを引き、上昇可能な高さを試したところ、十メートルほど上昇したが、それ以上の高さには達しなかった。
そのまま海に出ると、舟は支えを失うようにゆっくり海面に着水し、船体の下部を沈め船として推進した。
善も操縦をしたいと言うので、席を譲る。
善は舟を上昇させて遠くを見渡し驚き、走らせたりして楽しみ、大はしゃぎだった。
一段落してテストを終えると、燃料不足が気になり善に補給を頼んだ。
レリーフに手を触れると立体ホログラムが現れ、燃料の残量が表示された。
ほぼ満タン状態だったにもかかわらず、善の足裏が青く光り始め、その光が全身に広がった。
「善、今どんな感じがするんだい?」と俺が尋ねると、少し考えた後、善は答えた。
「何か、足が地面から何かを吸い出して、それが腹の辺りでグルグル回って、手のひらから出ていく感じだ。」
補給が完了した後、俺も燃料補給を試してみたが、結果はやはりエラーだった。
午後から善の住む村へ行き、彼の両親に紹介してもらう予定だ。
舟を洞窟に戻し、迷彩モードを設定すると、船体だけでなく出入口さえも完全に隠れてしまった。
俺は不安になり、何度も舟に触れてその存在を確認した。
さらにこれから他人に会うことにも不安感があったが、そんな心配をよそに善が励ましてくれた。
「大丈夫だ!史郎。俺が付いている。俺がうまく話すから、おまえは余計なことは言わずにいろ。」
その言葉に勇気づけられ、俺たち二人は村へ向かった。