光の球体は岩壁に吸い込まれた
光の球体は岩壁に吸い込まれた。
俺たちは舟を降り、調べることにした。
壁には直径二十センチほどの穴が開いており、覗き込むと、遠くで昇り始めた太陽の光がかすかに確認できた。
その穴の内側は石の性質が変化し、真っ黒でよく磨かれた御影石のようになっていた。
驚きは俺以上に善の方が大きかったようだ。
「史郎、俺は今まで生きてきたことの、全てが否定されているような気分だ」
「ああ、俺も同じだ。何でこんなことになったんだろうな」
俺たちは舟へ戻り、さらに驚かされることとなる。
操縦室の内部には出入口に並んでもう一つ幾何学模様のレリーフがあった。
触れると中央から左右に開いた。
その先には、約十メートル四方、高さ五メートルほどの雑然とした、まるであり得ない部屋が存在していた。
勇気を出してその部屋へ足を踏み入れ、中を調べることにした。
出入口から左側の壁には、奥から順に産業用の大型冷凍庫と冷蔵庫が並んでおり、どちらも作動しているが中は空だった。
さらにその隣には、金属製の箱と一体化した水槽が設置されていた。
その水槽は青い水で満たされていた。
これらの機器の前には、柔らかいクッション素材でできた診察台のような構造物があり、台の上下には半円形の金属体があって、その間に挟まる形で横たわることができそうだ。
その診察台の隣には高校の実験室にあるような水栓流し付きのテーブルが配置されており、その上には電子レンジが置かれていた。
出入口から右奥の隅には、金属ともプラスチックとも判断のつかない二メートル四方の銀色の箱があった。
ほとんど重さを感じない上蓋を上げると、中は半透明の青いゲルで満たされており、触れてみたが特に危険はなさそうだった。
そのゲルの中から目に留まった木箱を取り出す。
その箱には十字架とともに文字のようなものが彫刻されていた。
開けてみると、緑青の浮いたブロンズ製のワイングラスと槍の穂先が収められていた。
俺は見なかったことにし、木箱に戻して再びゲルに沈める。
その後、もう一つの木箱を引き上げた。
その箱には八芒星と別の文字が刻まれていた。
箱を開けてみると、ターコイズで装飾された小箱が現れた。
---開けるわけがない、神は偉大なり。---
ゲルの中には他にも、小さな緑の石を組み合わせて作られた仮面、羽根の首飾り、ランプ、杖、藁を束ねて作られた木製のほうき、竹の箒、バイオリン、彫像、陶磁器、鉱物結晶、さまざまな素材で作られた多くの印章、巻物、羊皮紙の本、何か金属の塊などが無造作に沈められ、まるでカオスの博物館のようだった。
俺は静かにそのパンドラの箱の蓋を閉じた。
「大丈夫か? 史郎。気分が悪いのか、顔色が青いぞ」
「ああ、この箱の中身はとんでもない。世界中の業が詰まっている。俺には抱えきれない」
顔色が冴えず落ち込んでいる俺を見て、善が慰めてくれる。
「おまえが抱え込むことはない。心配するな。その業は全部、俺が成仏させてやる」
たとえ嘘であっても、その言葉は嬉しかった。
救われた気分になった。