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第2章①


 九月下旬、放課後はそれぞれのクラスで文化祭の準備があるため、昼休み中に蛍と碧人は集まっていた。お互い弁当は教室で食べてからだったり、旧校舎で食べたりまちまちだったが。今日も弁当を食べ終わり、同じくごはんを食べ終わったチビを膝に乗せて、まったりとした時間が流れている。


「碧人はさぁ、とりあえず第一印象が怖いんだよ。それをどうにかしないとな」

「うるせえ。悪かったな、怖くて」


 言葉はとげとげしいのに、膝にチビがいるせいか声音は優しい。


「ぶっちゃけ、碧人ってヤンキーなの? そうじゃないの?」

「……中学の頃は、ちょっとヤンチャしてた。でも、別に好きで暴れてたわけじゃない。相手が喧嘩売ってくるから、ムカついて殴り返してただけだ」


 そんな殺伐とした中学生活送ってきたのかと、少々驚いた。


「なんで喧嘩売られるわけ?」

「……最初は、幼馴染みの女子が絡まれてるのを助けただけ。そしたら付き合ってるとまわりに誤解されて、なんか俺を倒したらあいつの恋人になれるみたいな、変な噂話が広がった」

「えっと、良くわからんけどその幼馴染みすごくね? 恋人の座を巡って不良共がバトル繰り広げるくらいの美人ってこと?」

「俺は見慣れてるから何とも思わないが、一般的には美少女だ。何回か芸能事務所からスカウトもされてる」

「へ、へぇ。じゃあ今はモデルとかやってんの?」


 兄みたいにまわりから羨望の眼差しを送られるタイプのようだ。にしても、だからって隣にいる男を倒したら恋人になれるって、どういう思考回路をしたらそういう話になるのだろうか。


「いや。芸能活動に興味ないんだってさ」


 蛍は己を平凡オブ平凡、オーラなし、背も平均、これといった特徴なしだと自認しているだけに、単純にもったいないと思ってしまう。


「俺だったら恵まれた容姿はこれでもかと利用するけど。てことで、碧人も怖い見た目をどうにかしようぜ。とりあえずその仏頂面が良くないな。ほら、笑って」


 にーっと言いつつ碧人に笑みを向ける。しかし、嫌そうに碧人は体を引いてしまった。


「は、無理」

「だよなぁ。それが出来るんだったら、クラス中からびびられるなんて状況にならないか」

「お前、俺を怒らせたいのか」

「んー、その重めの前髪をどうにかするか。ちょっと動くなよ」

「話を聞けや、こら」


 蛍は手ぐしで碧人の前髪を上げて、ぺったりと後ろになでつける。いわゆるオールバックだ。


「おい、やめろ」

「あれ、なんかさらに怖くなった。懐からナイフとか出てきそう。碧人もほら、見て」


 碧人に向けてインカメラにしたスマホを向ける。


「ただのチンピラじゃねえか!」

「そうなんだよねぇ。目元が見えた方がいいと思ってあげてみたけど、オールバックは良くないな。じゃあ真ん中で分けてみるか」

「もうやめろ、触るな」

「ぷぷっ、なんか、俺から逃げるチビみたい。あれれ、なんか金持ちの小学生男子みたいな髪型になっちゃった」


 お坊ちゃんがやってそうなセンター分けの髪型だ。


「おい、いい加減にしろ」

「何でだろな? 見る?」


 再びスマホを向けると、文句を言いつつも気になったのか碧人がスマホをのぞき込む。


「ぜんっぜん髪型と顔が似合ってねえ。コラ写真みたいになってんじゃねえか!」

「んー、分け方が良くなかったかな。もうちょっと左右で量を変えてみるか」

「もういい、触るな」


 蛍を邪魔してくる腕をかいくぐり、碧人の髪型を新たに整える。


「いーから、いーから。何事もトライアンドエラーだって……やば、芸術的なものができあがっちゃった」

「お前なぁ……いったい今度はどんなんになってんだよ」

「七三分けで、これはこれで有りかなとは思うんだけど、イケてるかと言われると正直ダサいな」

「俺で遊ぶな、ボケが!」


 思いっきり怒鳴られた。でも、これだけ騒いでいるのに碧人の膝からチビは逃げない。どれだけ碧人のことが好きなんだろうか。


「ごめんて。遊んでるつもりはないんだけど、俺あんまりセンスないから」

「あんまりどころか、皆無だろ」

「じゃあ碧人はどうしたらいいと思うんだよ」

「別にこのままでいいだろ」


 へそを曲げてしまったのか、碧人はこちらを見ようともしない。


「それじゃ怖いままだって。確かにワルの魅力ってのもいいけどさ、怖すぎて視界にも入れてもらえなかったら駄目じゃん。言いたかないけど、現時点での碧人はその状態だからな」

「クソが」

「あ、それ口癖? それも人前ではやめろよ。怖がらせるから」

「くっ……お前、俺が協力するって言ったからって、調子に乗るなよ」


 じろりと碧人に睨まれる。でも、もう全然怖くない。


「調子に乗るに決まってるだろ。碧人こそ、武士に二言はないだろ」

「俺は残念ながら武士じゃない。ただの男子高校生だ」

「なんだよー。ただの会話のノリだろ」

「くっそ、ムカつくな」

「あーまたクソっていった。これカウントしてペナルティー作る?」

「作るな。それよりもう面倒だから、助っ人を呼ぶ」


 碧人がため息をつきつつ、スマホを手にした。


「え、助っ人のあてあるの?」

「まあな。気が進まないが、お前にダサい提案をされるより、あいつにからかわれる方がまだマシだ」


 そう言って、碧人はスマホに何やら打ち込み始める。どうやらメッセージを送っているらしい。



***



 翌日の昼休み、旧校舎にて弁当を食べていると、ギシッ、バキッと激しいスキップの音が聞こえてきた。旧校舎の傷んだ廊下がこれでもかと鳴るせいだ。


「はじめましてー。花塚美織はなづか・みおりです! 君が例の子かぁ。うんうん、可愛いね」


 勢いよく現れた女子生徒は、二年生の学年カラーの上履きを履いていた。手入れが行き届いているのか艶やかな黒髪が背中まで伸び、大きな目は好奇心にキラキラと輝いている。元気いっぱいな日本人形のような人だなと思った。とにかく顔面が整っているし、スタイルもいい。それでいて表情が豊かだから、目が追いかけてしまう。

 強引に握手を求められて目を白黒させていると、隣にいた碧人が口を開いた。


「圧が強い、離れろ美織」

「えー、碧人のお気に入り君でしょ。お姉さん的にはちゃんと挨拶したいっていうかぁ」

「キモい声出すな、体もくねらせるな」


 仲が良さそうなのが一目瞭然だった。知らなかった、碧人にこんな親しくしている女子がいただなんて。しかも先輩? いつ接点が? なんだろう、胸がもやっとする。


「ど、どうも。一年の杉原蛍です」

「やーん。初々しい。可愛い。理想的な体格差だし、めっちゃいいの浮かびそう」

「美織、化けの皮がはがれてる。ちゃんと張り直せ」


 美織はぺたぺたと自分の顔を触ったあと、すっと姿勢を正した。


「うそ、ヤバ。こほん。ええと、取り乱しちゃってごめんね。碧人とは幼馴染なのよ。で、昼休みも限りがあることだし、本題に入りましょうか。蛍君はこいつを学園の王子様にしたいのね」


 この人が例の幼馴染だったらしい。どうりで美人なわけだ。


「はい! 碧人に新王子になってもらって、兄をぎゃふんと言わせたいんです」

「ふふ、可愛い。兄に対してコンプレックスありだなんて、たぎる設定ね」


 何故か慈愛に満ちた目で見られた。たぎるとか言ってるけど意味が分からない。


「え、設定?」

「いえ、また剥がれてたわ。気にしないで。でも蛍くんは目利きね。碧人って冷静に見れば整った顔立ちしてるのよ。ただ表情とか威圧感とかで台無しにしてるけど」

「そうですよね。俺も最初は怖かったんですけど、こいつが笑ってる顔見てめっちゃ刺さったんです。すげえ格好いいじゃんって。ちょうど兄に勝てる逸材を探してたのもありますけど、それ抜きにしても、埋もれてるのがもったいないって思ったんです」


 思わず興奮気味に自分の思いを語ってしまう。言い終わった後、ちょっと恥ずかしくなってしまった。


「へぇ、いいじゃない。そういうことなら私に任せて。今日の放課後は蛍くん空いてる?」

「は、はい」


 D組は文化祭の準備は部活動が優先されるので、写真部の蛍は役割分担が少ない。なので、今日の分は明日やれば大丈夫なはずだ。


「よし。じゃあ放課後。私の行きつけのお店に行こう。もちろん、碧人は強制参加だからね」


 美織の勢いに、蛍も碧人も否とは言えなかった。



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