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第3章②


 美織の協力により、翌日にはお洒落な私服姿の碧人が数パターン撮れた。文化祭まであと十日、早くポスターを貼りたいと写真部のノートパソコンを借りて、徹夜して自室で編集作業をする。作業しながら写真部の先輩に分からないことを電話で聞き、翌朝には十種類のポスターを完成させた。


 適当にしか活動していなかったけれど、写真部に入っていて本当に助かった。写真の選び方から、見栄えの良くなるちょっとした加工方法とか、そもそもの加工ソフトの使い方まで、先輩が助けてくれなかったら出来なかっただろう。これからはもっと真面目に部活動に励みますと、スマホに向かって何度頭を下げたことか。


 そして完成したポスターを印刷して校内に貼る。もう文化部や力の入ったクラスのポスターがちらほら貼られていたので、堂々と碧人のポスターを横に貼った。モデルポーズの正当派なもの、ちょっとアンニュイな気だるげな雰囲気のもの、チビに友情出演してもらったキュートめなものとバリエーション豊かなポスターが出来たと思う。


 これで少しでも碧人の認知度が上がればいいなと思っていたのだ。それなのに、写真部の先輩から驚きのメッセージが来た。『二年の掲示板に貼ったポスターがはぎ取られてる』と。


 昼休みに慌てて確認しに行くと、確かに蛍が貼った箇所はぽっかりと空白になっていた。だがよく見ると、乱暴に剥がされたのか、四つ角の画鋲とポスターの端っこが小さく残っている。


 もしかしてここ以外のポスターも剥がされているんじゃと思い、順番に見ていくと、一年の掲示板以外に貼ったすべてが剥がされていた。だけど、一年の掲示板も時間の問題かもしれない。一番最後に貼ったポスターだから、貼ってから時間が経っていないのだ。


 足取りも重くB組に行くと、幸太と碧人が話していた。がばりと腕を広げて、二人の肩を抱き込むように飛び込む。


「妨害してくる奴がいるー!」


 碧人がびくりと肩をゆらし、幸太はハイハイと言いながら押し返してくる。


「幸太、反応が冷たいぞ」

「いつも通りだ。それで、妨害って?」

「午前中の休み時間に、あちこちポスターを貼ったんだ。けど、それが剥がされてる。他のポスターはそのままだから、確実に碧人のだけを狙って剥がしてる」

「まぁ、俺は怖がられているからな。仕方ない」


 碧人がぺしゃりと机にうなだれた。


「違う! もし碧人のことをまだ誤解している人がいたとしても、あのポスターを見て『怖い』とは思わない。きっと兄ちゃんがやってるんだ」


 柊とはここ数日、顔を合わせないように過ごしている。生徒会が忙しくて柊の帰りは遅いから、帰ってくる前に夕食と風呂を済ませて自室に籠もっているし、朝は柊は早いので、彼が出て行ってから大慌てで準備して登校していた。だが昨日の夜、柊がドア越しに声をかけてきたのだ。


「俺がポスターの作成作業してたら、兄ちゃんが無駄な努力はやめたほうがいいよって言ってきた」


 明らかに蛍の行動を牽制している。


「あー、ホタルの兄ちゃん腹ん中ねちっこそうだもんなぁ」


 幸太が参考書を閉じながら言う。


「俺、兄ちゃんに文句言ってくる」

「本気か?」


 幸太が心配そうにこちらを見てくるが、問題ない。いや本当は怖くて仕方ないけど、これはちゃんと異議申し立てをすべきことだから。


「俺も行く」


 すると碧人が立ち上がった。


「碧人? いや、悪いよ。俺が準備とかはすべてやるって言ったんだし」

「俺のポスターが剥がされたんだ。一番文句を言っていい立場のはずだ」

「それは……そうかもだけど」

「じゃ、まあ二人で行ってこいよ。健闘を祈る!」


 幸太に肩を叩かれ、蛍は良いのかなと思いつつも、碧人と三年の教室へと向かった。

 柊の教室に行き、クラスメイトの人に呼び出してもらう。そして今、空き教室で柊と対峙している。


「珍しいね。僕が一年の教室に会いに行ったから、今度は蛍が来てくれたってことかな?」


 にこやかに笑みを向けられて、ぐっと体に力が入る。でも、こんなところで屈していては駄目だ。


「違うよ。俺が貼った、碧人のポスターが剥がされてる」

「ふーん。それで?」

「それでって、何だよ。兄ちゃんがやったんだろ。こんなやりかた卑怯だ」

「何を言い出すかと思えば、被害妄想も大概にして欲しいね」


 くすくすと柊は笑い出す。


「兄ちゃんしか、こんなことするの考えられない」

「そういわれてもねぇ、僕は、何も知らないよ」


 妙に引っかかる言い方をしてくる。すると、黙っていた碧人が口を開いた。


「じゃあまわりの奴らは?」

「君、以外と賢いね。蛍とちがって可愛くないなぁ」

「あんたなんかに可愛いと思われても気持ち悪い」

「ふふ、そうかもね」


 二人で進んでいく会話に、蛍はいまいちついて行けずに焦る。


「ちょっと、どういうこと?」


 無理やり気味に割って入ると、碧人がため息交じりに答えてくれた。


「だから、生徒会長のまわりにいる奴らがやってるってことだ」

「碧人くん、それは少々語弊があるなぁ。やっているかもしれないなと、思っているだけだよ。僕は、何も聞いてないから、何も知らない」

「じゃあ、やめるように兄ちゃんが言ってよ」


 全く悪びれる様子も無いことに、腹立たしくなってくる。


「嫌だ。何で僕が友人達を疑わなくちゃいけないんだい?」

「は? 生徒会長だろ。悪いことをしてる奴がいたら注意するのが普通だろ」

「分かってないね、蛍は。僕は何も聞いてないから、何も知らない。つまり、僕にとって友人達がやっているかもしれないことは、起こっていないことなんだ」

「え……?」


 意味が分からなくて、頭の中が混乱してきた。謎かけのような言葉が、正常な判断を余計に狂わせてくるようだ。

 じわじわと柊に対する恐れで思考が麻痺していく。このままでは、またいつものように無様な姿をさらしてしまう。


「蛍、もういい。これ以上、生徒会長の戯言を聞くな。教室に戻るぞ」


 くんっと手を引かれ、目の前が明るくなった気がした。あぁそうだ、今ここにいるのは蛍だけじゃない。碧人もいるんだ。それがものすごく嬉しくて、死ぬほど有り難いと思った。



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