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第3章①


 文化祭までに碧人の知名度を上げなくてはならない。ミスターコンテストの投票は当日のステージを見て行われるのだが、現在の学園の王子様と称されている柊が参加している時点でかなり不利だ。名前も知らない一年と生徒会長だったら、みんな生徒会長に入れるに違いない。だから、こういうイケメンが一年にいるというのを、当日までに全校生徒に知らしめなくてはならないと思うのだ。


「ということで碧人、宣材写真撮ろう」

「は?」

「ポスター貼るんだよ」


 ミスコンの参加規約を読み込んだが、事前に宣伝してはいけないという条項はなかった。ないならば、宣伝しなくては損だ。


「分かった。制服で良いのか?」


 予想外に碧人が協力的だ。嬉しくなって、蛍は自分の頬が自然と上がるのを感じる。


「私服もありか。むしろ制服は見慣れている分、私服の方が興味引かれるかも。全部違う服にしたら面白いかな」

「……いったい、何枚ポスター作る気だよ。面倒だろ」

「写真さえ撮れば、あとは俺が文字とか入れて作るから大丈夫」

「だから、お前が大変だろ」


 蛍の心配をしてくれるなんて嬉しいじゃないか。余計に頑張らねばと気合いが増す。だが、増す気合いとは反比例に、ある困りごとが浮上する。


「これくらい平気だって。それよりも大問題がある。俺はファッションが分からない」


 二人の間に沈黙が流れる。


「仕方ねえな。また美織呼ぶか」


 すぐに美織という名が出てきた。それだけ碧人と親しい証拠だ。

 協力的な碧人に上機嫌だった気持ちが、少しだけしぼんだ気がした。自分だって幸太とは幼馴染みで、何かあったら頼ってしまう。だから、それと同じだと思う。でも、美織は美人で性格もさっぱりしていて話していても楽しい人だ。こんな魅力的な異性がいたら、碧人だって本当は意識しているのではと思ってしまう。


 ていうか、意識したらどうだっていうんだ。別にいいじゃないか、自分には関係ないことだろ。碧人が誰を好きだろうと、それに口出しする権利など蛍にはない。

 なのに、どうしてか気になってしまうこの気持ちは何だ。


 ふと蛍の脳裏に、柊の問いかけが蘇る『まさか、そいつのこと好きなのか?』と。聞かれた蛍は『そういうんじゃない』と答えた。でも、本当は『そう』なのでは?


 まさかと思う自分がいる。これまでも好きだなと思った女の子はいた。付き合ったことは無くて、みんな可愛らしいな、恋人になったら楽しそうだなっていう憧れみたいな感じだったけど。

 もしかして今までは恋に恋していただけだったのか?


 急にドキドキと心臓がうるさくなってきた。仮に今までのが恋じゃ無かったとしたら、碧人が自分にとっての初恋ということになる。高校一年にして初恋とかちょっと遅くないだろうか。いや、論点はそこじゃないだろ。だって碧人は可愛い女の子じゃない。蛍よりも背が高くて顔も良くて性格も優しい男だ。そう、同性だ!

 いやいや、今は多様性が叫ばれている時代だ。別に同性が好きでも、それはおかしいことじゃない。頭では分かってる。でも、いざ自分がそうかもとなると、やはりビビる。この気持ちは本当に「好き」と定義して良いのか? よく考えろと走り出そうとする感情を押さえ込む。


「どうした、蛍?」

「……え?」


 碧人の声に、思考が目の前に引き戻される。そして、蛍の目の前には怪訝そうに眉を寄せる碧人の顔。何よりも――――。


「碧人、今、俺の名前呼んだろ」


 始めてじゃないだろうか。碧人には、いつもお前とか杉原と名字で呼ばれていたはずだ。


「別にいいだろ。お前の兄も杉原だ」


 柊に揚げ足を取られたのが嫌だったのか。理由がそうだとしても嬉しかった。何だかまた少し距離が縮まったみたいで、心に羽が生えたみたいにふわふわする。

 もう観念するしか無いなと思った。名前を呼ばれただけで、こんなにも幸せな気分になるのだ。もうあがいても無駄だ。碧人に恋をしていることを認めよう。恋するだけなら自由だ。押しつけなければ困らせはしないし、自分も傷つかないのだから。


 幼少時に、自分も両親に構って欲しいと感情を押しつけた。その結果、怒られて嫌われた。もう分かっているだろう? どうせ選ばれないし、自分の気持ちは相手に伝えたら痛い目を見るんだ。だから、碧人への気持ちも自分の中にしまっておこう。



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