15『ライターとお団子』
依咲のことを頭の中から追い出した俺は、何気ない日常を平然と過ごしていた。テスト範囲の広さに苦しむのも、友達との放課後を謳歌するのも、年相応の高校生と何ら変わらない。その中には恋したあの子はどこにも居らず、俺自身も気にさえしなかった。まるで最初から依咲との思い出がなかったかのように、一秒だって思い出すことはない。あれほどまでに怖がっていた忘却も、実際に起こってしまえば何も恐れるようなことではない。
ごく自然に発生した記憶消去は、俺の無意識下で何の違和感もなく行われていた。何気ない日々を過ごしている内に、時間は驚くほど早く過ぎ去っていく。気づけば高校二年生の三分の一が終わり、絶賛夏休み真っ只中だった。それも宿題に追われダラダラと過ごしている間に、気づけば半分が過ぎようとしていた。
「和眞、下降りるよ」
父にそう言われ、俺は部屋着のまま玄関で靴を履いた。まだ暑い八月の半ば。太陽はすっかり沈んでしまったけれど、夏の風合いを未だ色濃く残している。俺が玄関の扉を閉めると、母はドアの鍵を閉めてエレベーターに乗り込んだ。そうして俺と父も乗り込むと、僅かな圧迫感を発生させながら下へと下っていく。
「ライター持った?」
不意に言葉を発すると、父は返事の代わりに持っていたライターを掲げた。一階に着くと、俺たちと同じように他の住民も集まっていた。別に相談したわけでもないので、みんな考えることは同じなのだと感心した。俺たちはその人たちから離れたところに集まると、徐に持っていた皿の上で割り箸を組んでいく。そうして中央に適当な紙を入れ、ライターで火をつけた。紙に燃え移ったオレンジ色の炎は、パチパチと音を発生させながら割り箸に移っていく。
毎年この時期が来ると、自然と夏の終わりを感じてしまう。まだ秋と言うには早いが、それでも残暑と呼ばれる季節に移ろい始めていた。俺は燃え上がるオレンジを眺めながら、ふと依咲のことを思い出した。長いこと忘れていた彼女のことは、もう殆ど思い出すことは出来ない。彼女も死んでしまっているのなら、今頃俺たちと同じく家族が迎え火をしていることだろう。迷わず真っ直ぐ帰って来れるように、キュウリとナスの動物を作って。
「これで自分の家が分かるもんなのかな……?」
自分の家の前で火を焚くことで、個人は自分の家が分かるという。それはたとえ引っ越したとしても、自分の家族を見失わないということだ。けれど、果たしてそれが本当なのかは分からない。今燃えているこれだって、俺の親族が分かる確証はどこにもなかった。生きている俺たちは、きっと分かるだろう、と信じて燃やし続けるしかない。それは理解しているけれど、依咲たちが迷っていないか心配になった。
「きっと分かるのよ、匂いか何かで」
母はそう言って俺の頭をひと撫でし、既に燃え切ったそれに少量の水をかけた。するとじゅわぁと熱の冷める音がして、あっという間に迎え火が終わった。父と母は燃えカスと皿を持って早々に帰宅したけれど、俺は何だか帰る気にはなれなかった。もしかしたら迷子になっているかもしれない。そう思うと、目印のように少しの間だけでも立っていたかった。俺がこうして家の前に立っていたら、さすがの故人でも分かってくれるような気がした。
「かーずま!」
暫くして、何処かから聞き覚えのある声が聞こえてきた。それは恋したあの人で、会いたいと願っていたあの子だった。消え去っていたはずの感情は、声を聞いただけで瞬時に蘇ってくる。愛しさも、寂しさも、悲しさも、およそ感情と呼ばれるものの全てが俺も体内に存在していた。
「依咲」
大好きな女の子の名前を呟く。呟いて、早く会いたいと願った。
「依咲」
こんなにも好きだったんだ。最近はすっかり忘れてしまっていたけれど、片時だって離れたくはなかった。
「依咲!」
この世の何よりも愛しているんだ。本当なんだ。依咲のためならなんだって捨てられる。何処へだって行ってしまえる。
「依咲!」
「和眞!!」
俺の名前が叫ばれた瞬間、背中に何かがぶつかった。車ではない。しっかりと温もりを持った人間だ。その人の熱は、心地がいいほど温かかった。
「……依咲」
背後から抱きつかれた俺は、彼女の顔が見れないでいた。見えるのは、背後から腹部に回された細い腕だけ。けれど、今の俺にはそれだけで十分過ぎた。再び会えたのだと、そう実感できる材料は既に全て出揃っている。
「今までどこにいたんだよ。俺、ずっと待ってたのに」
「ごめんね。私だって会いに来たかったけど、なかなか来れなくて」
「寂しかった」
「うん」
「ニュース見て、本当に悲しかったんだ。依咲が死んでたなんて、そんなの知らなかったから」
「言ってなかったもんね。本当にごめん」
「でも、また会えたからいいよ。今はそれだけでいい」
「私も。和眞に会えて嬉しい」
ぎゅっと、腹部に回された腕に力がこもる。死んでいる依咲がどうして俺に触れるのか、なんて疑問は少しも湧かなかった。生きていようが死んでいようが、こうやって体温を共有できることに幸せを感じる。
「もうどこにも行かないでよ。ずっとずっと、俺の傍の居て?」
俺は依咲の手を上から優しく握る。力を込めたら壊してしまいそうで、離れないように強く握ることは出来なかった。
「うん……そうしたいんだけど、行かなきゃならないところがあるから」
「それじゃあ、俺も一緒に……」
そう言いかけて、俺はほんの一瞬だけ冷静になる。今日はお盆の入りだ。個人が現世に帰ってきて、親族とともに時間を過ごす時期。それは勿論、依咲だって同じなはずだ。彼女にも親がいて、親族がいて、みんな依咲の帰りを待っている。彼らに姿が見えることはないかもしれないけれど、きっと思い出話に花が咲くに違いない。そんな場に、主役である人物がいないなんてことはあってはならなかった。
本当は、もう二度とこの手を離したくはない。俺のものだという印を付けて、ずっと傍に居れるようにしたい。片時だって離れたくはない。けれど、そう出来ないことは薄々分かっていた。依咲が俺のものではないのと同じように、俺は依咲のものではない。行かなきゃならないところがある、と言われれば、俺に与えられた選択肢は笑顔で送り出すことだけだ。依咲の行動を制限することはおろか、俺が彼女の後をついていくことだって許されてはいない。名前のない関係が、俺の心を強く、キツく縛りつけた。
「本当に行っちゃうの?」
未だに彼女の顔は見えないけれど、背後で静かに呼吸が繰り返されているのを感じる。
「ごめんね。でも、行かないと」
依咲の声は心なしか低く、悲しそうに響いていた。俺は握った手をゆっくりと解き、依咲に触れるのをやめた。すると、力の込められていた腕がとてもゆっくりとした速度で離れていく。また別れが来るのか。そう思うと悲しくて淋しくて、どうにかなってしまいそうだった。
「依咲!」
手が完全に離れる直前、俺は彼女の名前を呼びながら振り向いた。
「和眞……」
俺の視界は依咲でいっぱいになり、それだけで多幸感に包まれる。他の何にも邪魔されないこの距離は、手放すのが躊躇われるほど特別な空間だった。
「絶対、また会える?」
この約束に絶対などないと、俺は確かに知っていた。山の天気のように変化しやすい俺たちの関係は、今日が最後かもしれないと覚悟をしておかなければならなかった。それは彼女が既に命を落としているからで、反対に俺は当分死にそうにないからだ。今でこそこうやって会えているけれど、二人の間には越えられない壁がある。絶対も確実も必ずも、全ての断言できる言葉は、信用こそすれ約束には向いていない。
「必ず。だって、想い合ってる二人が再会出来ないなんて、そんな話ないでしょ?」
依咲は鼻先が触れ合う程近くで、ふふっと笑いながら言った。彼女だって分かっているはずだ。口にした『必ず』が絶対ではないことを。近い未来で起こる可能性を約束することは出来ないと。それでも、俺たちはお互いに断言する。絶対と口にすることで。必ずと伝え合うことで。それは言霊となって、いつか自分に返ってくるはずだから。そう信じているから、また会おうと口にできるんだ。
「そろそろ行くね」
「うん。……俺、今度は会いに行くよ」
「分かった、待ってる。来てくれるのを、ずーっと待ってる」
俺たちはお互いに別れを惜しみ、どちらからともなく抱きついた。依咲はもうこの世にはいないはずなのに、不思議と体温が感じられる。トクトクという鼓動が聞こえてくる。テレビで見たニュースは全て嘘なんじゃないかと、そう思ってしまうほどにリアルだった。
けれど、これは夢なんかではない。会いたいが故に、自分で作り出した妄想ではない。確かに今、現実で実際に起こっている出来事だ。そう感じれることに、俺は一人静かに安堵した。俺たちは暫くの間そうして抱きしめ合い、後ろ髪を引かれるように別れた。依咲が物陰に隠れて見えなくなるまで、俺はじっとその先を見つめていた。
依咲に会いたい。再び会える日はいつ来るのだろう。そんなことを毎日のように考えていると、夏休みは一瞬で溶けていった。案の定出された課題は山積みで、夏休みが終了しても片付く気配は微塵もなかった。そうしてとうとう提出すること自体を諦めると、束の間の穏やかな日々が戻ってくる。真夏のような暑さは終わり、少しばかり涼しいような気がした。けれどまだまだ冷房は手放せず、セミは大声で声を上げていた。
「おはよ……」
夏休みが終わって一週間。未だに休み気分は抜け切らず、今日も今日とて冷め切らない頭を必死に稼働させた。長期休みの一ヶ月間で、俺は当然のことながら昼夜逆転生活を送っていた。朝の早い時間に起きるなんて、正直なところ勘弁して欲しかった。せめて夏休みがもう一ヶ月あったなら、なんて願望を脳内で練りながら、俺は大きなあくびをひとつした。
「早くご飯食べなね」
出社着に着替えた母は、なんだか忙しそうにせかせかと動いている。俺とは正反対の様子に、大人ってすごいなぁと他人事のように感心した。俺はダイニングの椅子にうとうとしながら着席すると、既に用意されていた朝食に手をつける。今日のメニューは焼いた食パンの上に目玉焼きが乗った、俺の好きな朝食だった。
俺はそれに冷蔵庫から取り出したケチャップをかけ、半分寝た状態で食らいつく。そんな状態でも味覚は正常に作用し、美味しいという感情だけを胸に湧き上がらせた。なんだか幸せな気分になった俺は、このまま学校を休んでしまいたかった。しかし、今の俺には休めるだけの理由がない。熱は正常で、どこか怪我しているわけでもない。俺ははぁ、と大きなため息を吐くと、どこか憂鬱な気分のまま朝食を平らげた。
「母さん先行くから、鍵閉めてってね」
キッチンで皿を洗っていると、母はそう告げて早々に出勤した。今日は朝から会議か何かがあるのかもしれない。俺の起床前に出勤した父のことも思い浮かべながら、洗い終わった皿を乾燥器内に立てかけた。それから制服に着替えると、家を出る時間まで余裕が出来る。この余裕時間はあっという間に終わることを知っているので、俺は椅子に座って携帯を弄ることにした。そんなとき、ふと目の前に置かれた新聞が目に入る。いつもは父が読んでいるはずのそれは、未読なのか丁寧に畳まれたままだった。
「なんか書いてあるかなぁ」
何の気なしにそれを手に取ると、まず最初に見えたのは勿論新聞の一面だった。そこには、山奥で見つかった例の骨のことについて書かれている。
「……犯人が、捕まった」
大きく書かれた見出しを音読すると、俺はそのまま視線を滑らせる。二十五年前に依咲を殺害した犯人が、今になって捕まったらしい。そんなことあるのかと、俺は何度も何度もその文を読み直した。
『〇〇町で発見された白矢依咲さんの白骨死体について、当時同級生だった赤風信子(四十二)を殺人容疑で逮捕した。調べによると、赤風容疑者は容疑を認めており、「恋人を取られそうになり、当時あった空き地に呼び出してやった。依咲は叔父を嫌っていたので、罪をなすりつけてやろうと思いあの家に埋めた」と供述している。警察は自供内容も含め、事実確認を急いでいる』
新聞記事を読み終わると、家を出る時間をほんの僅かに過ぎていることに気づいた。俺は大慌てで鞄を手にし、少々乱暴に玄関の扉を閉めた。そうしてから普段行わない施錠を済ませ、早足で階段を下っていく。朝から汗だくになるのは御免だが、エレベーターを待っている時間があるとは思えない。こればっかりは自分のせいでしかなかった。
「ありがとうございましたぁ」
退屈な授業が終わると、その間の小休憩で俺は今朝新聞で見た情報を改めて携帯で調べてみた。検索アプリに事件名を入力し、出てきたサイトをしらみ潰しにタップする。書いている人間は違うはずなのに、そこに書かれた内容はどれも同じだった。赤風という女性が、二十五年前に高校生だった依咲を殺めた。俺は犯人が逮捕されたことに安堵する。けれど、その動機はとてもじゃないが理解出来なかった。
殺人犯の感情など、俺には理解出来なくてもいいのかもしれない。しかし、犯人の女性もきっと俺と同じ人間だったはずだ。最初から殺人犯だったなんて、そんなことあるわけないのだから。
「彼氏のことが好きだから、邪魔な人間を殺そう……ってこと?」
俺は世界中の誰よりも依咲のことが好きだけれど、その想いを理由に誰かを傷つけるなんて、そんなこと出来ない。してしまったら、彼女が離れていくことは確実だからだ。それに利用された恋心は、もう二度と本物ではなくなるような気がする。純粋に相手を好くなんて。熱烈に想いを伝えるなんて。そんなことが出来るわけなかった。犯行動機にされてしまった感情には、純粋さの中に不純物が混ざっているはずだから。透明な水に墨汁を一滴垂らしたように、お世辞にも綺麗とは言えない。
「これ、どっかで……」
記事を下から上へスクロールしていくと、一枚の古い画像が目に入る。その画像の下に書かれた注釈には、『今は無き空き地』と書かれていた。おそらく、犯行現場にされた例の空き地なのだろう。あいにく俺はその空き地を見たことはないけれど、その周辺の建物には見覚えがあった。何年経っても変わらない、そこに有り続ける一軒家たち。俺のよく知る場所だった。
俺はその画像を長押しで保存し、授業後に早足で向かった。通い慣れた通学路をいつも通り進み、寄り道などせず真っ直ぐ帰宅する。けれど今日はそのままエレベーターには乗らず、入り口を通り過ぎて裏手へ回った。そうして保存した画像を表示させると、目の前の光景と照らし合わせてみた。
「やっぱり」
目の前に広がる風景は、依咲が何日も立っていた街灯を、ちょうど視界の中心に捉えている。画像上にその街灯は無いけれど、ここから見える家々は二十五年前と少しも変わっていなかった。変化があるとすれば、ここが既に空き地ではないということ。砂地の地面にはコンクリートが敷き詰められ、新しいマンションが建っているということ。今分かる変化はその程度で、あとは大して変わってはいなかった。
画像を見たときになんとなく予想はしていたが、いざその予想が当たってみると言葉はただのひとつも出てはこない。この辺りで女子高校生の命がひとつ失われたのだと、俺にはどうしても実感できなかった。何故なら、ここは俺が育った場所だから。親と公園へ行くときも、友達と待ち合わせるときも、事件のじの字だって感じなかった。平和で安全で、安心して暮らせていたから。俺の生まれる前に何かあったかもしれないなんて、少しだって考えたことはない。けれど今目の前にあるものこそが、疑いようのない真実だった。
「依咲は、一体いつからそこにいたの……?」
俺は目の前の街灯をじっと見つめ、人影のないそこに問いかけた。しかし、問いに対する返答は返ってこない。いつから街灯下に居たのかも、どんな思いで立っていたのかも、聞くことは出来ない。彼女は今、どこにいるのだろう。今会えたとして、俺は依咲になんと声をかければいいのだろう。疑問に対する明確な答えが得られることはなく、俺は画像を消去してから自宅へ帰宅した。
「和眞〜、お団子食べる?」
仕事から帰ってきた父は、手に持ったビニール袋を掲げながらそう言った。
「なんで団子? 好きだっけ」
おれがそう問うと、父は「今日は十五夜だぞ」とだけ口にした。ハロウィンやクリスマスとは違い、何故だか十五夜の存在はあまり際立たない。これといってイベント事に感じないからだろうが、滅多に食べない団子が食べられるのは悪くなかった。
父はテーブルの上にビニール袋を置くと、楽しそうにパックから団子を一つ取り出した。夕食前に食べるなんて罪深いけれど、俺も父と同じように団子を口にする。月を模した黄色い団子は、この時期にしかお目見えしない珍しいものだ。味はきっと他のものと変わらないだろうが、なんだか特別感が増した。
俺は団子を咀嚼しながら、網戸を開けてベランダへと出た。頭上には明るい月が浮かび上がり、団子と同じく綺麗な円を描いていた。真夏と比べて、今夜は随分と涼しいように感じる。セミの代わりにどこからか鈴虫の声が聞こえ、音と気温が秋を静かに伝え始めていた。
「あ、星だ」
月を眺めていた俺は、その側に小さな星があることに気づいた。明るさからしておそらくは一等星で、月に負けず劣らずキラキラと輝いている。きっとあの星にも名前が付いているのだろう。彼女と出会ってから、俺は星に興味を持ち始めていた。
「依咲、あの星って……」
俺はそこまで口にして、そこから先を言葉にはしなかった。星の名前をいない人に尋ねるなんて、そんなのどうかしている。きっと俺は疲れているんだと、そう思いながら塀に寄りかかってため息を吐いた。星に詳しい依咲のことだ。おそらく今の俺の問いには、少しも考えることなく瞬時に答えるに違いない。携帯で調べるよりも早く、その辺の人よりも正確に、分かりやすく説明してくれることだろう。
こんなときにどうして居ないのかと、俺は少しだけ依咲に言ってやりたかった。再会するシチュエーションは万全だぞ、と声を上げて伝えたかった。今度は俺が会いに行くと言ったのだから、せめて場所ぐらいは教えてほしい。仮に一から探すとなれば、会えるのはきっと数年後になるに違いない。それだけは避けたいなぁ、と思いながら、俺は持っていた団子を口に放り込んだ。
「ただいま〜、和眞お団子買ってきたけど食べる?」
父に続いて帰宅した母は、そう言いながらリビングへと足を踏み入れる。俺も同じようにリビングへ上がり、開けっぱなしだった網戸を閉めた。母は鞄の中から団子のパックを取り出すと、テーブル上のパックを見てふっと笑顔を溢した。長らく一緒にいると思考が似ると言うけれど、それはまさに俺の両親のことだった。
意図せず同じ団子パックが並んだテーブルは、変わらない平穏な日常の写し鏡だ。争いなど微塵も感じさせない、幸福の象徴だった。