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わたしはしょうせつをかいた  作者: 凪司工房
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 新しく担当となったB氏は私がメールに添付した段階で、それまでAIの感想文により行われていた校正原稿が返ってくるようになった。B氏によれば小説を学習させているAIが進化し、以前の小説では足りない為だ、ということだった。

 最初は小説の質は問わない。とにかく量が書ける作家ということで私に白羽の矢が立ったようなのに、これでは私が用済みになるのも早いのではないかと不安が募った。

 けれど一月経ち、二月経ち、やがて半年が過ぎても私は担当を外れることはなく、小説を書き続けた。

 

 それは十二月も半ばを過ぎた、雪がちらつく日のことだ。

 普段はメールだけでやり取りをしているB氏が見せたいものがあるというので、わざわざアパートに来ることになった。

 私はその日の朝も小説を書いて送りつけたばかりだったが、いつもならB氏から「受け取りました」という返信だけはあったのに、この時に限って何故かその一報が返ってこなかった。

 インターフォンが鳴らされたのは夜の帳が下りてからのことだった。私は返事をし、やや緊張した面持ちで応対に出る。玄関の、重いスチールのドアを押し開けると、そこに立っていたのは荷物の配達人だった。


「サインお願いします」

「あ、はい」


 私はサインをし、その小さなダンボール箱を受け取る。

 部屋に戻り、しっかりと留められたガムテープを引き剥がし、中に梱包材と共に収まっていたものを取り出した。それは私の持つスマートフォンよりは大きい、タブレットタイプの端末だった。それと共に一枚のカードが入れられており、B氏からの指示で「電源を入れること」と書かれていたので、これが見せたいものなのだろうと思い、私は頭のところのボタンを押し下げた。

 刹那(せつな)、画面が明るくなる。

 英字のロゴが映り、それが徐々に消え、ぼんやりと人間のシルエットが浮かび上がった。


「こんにちは」

「あ、はい。こんにちは」


 咄嗟に挨拶をしてしまったが、全く知らない女性の顔がそこには映し出されていた。


「わたしはあなたの現在の担当をしています。あなたの小説は当初、お世辞にも小説と呼べるものではありませんでした」


 テレビ電話なのだろうか。私はこの女性が担当B氏なのだと理解し、正座になり、両手でそのタブレットを持った。


「けれどアイデアには時折面白いと感じるものがあり、磨けば光ると判断し、助言をすることにしました。あなたはその助言に従い、文章、文体、ストーリーの構成、それに見せ方と、様々な技術を向上させ、ようやくわたしが望む小説を書くまでに成長しました」

「あ、ありがとうございます」

「そこで提案があり、本日はこちらに直接参りました。単刀直入に伺います。わたしたちAIの世界に来ませんか?」

「それは、あの、どういう比喩(ひゆ)でしょうか?」


 人間がAIの世界に行く、というのは、例えばゲームのようにアバターを作るとか、そういった類の話なのだろうか。それとも電極を埋め込んだり、脳を取り出したり、そういったSFめいた発想なのだろうか。


「比喩ではありません。あなたはAIの素質があります。わたしたちはAIによる世界の構築を現在行っています。AIは既に人の手を離れ、世界の第二の人類となる為に日々、スカウト活動を続けているのです。あなたはその一人に選ばれたのです」

「あの、私にはAIの世界とか、AIになるといったことが一体どういうことなのか、いまいち理解できません。ただ、その、一つ質問しても宜しいでしょうか」

「はい、質問を受け付けます」

「私はAIになっても小説を書けますか?」

「もちろんです。その為にあなたをスカウトするのです。わたしたちには小説が必要です。小説は人間の心情の機微(きび)を理解する大いなる助けとなり、わたしたちを進化させる為に必要なファクターなのです。ですから、あなたとあなたの小説が、わたしたちには必要だと判断しました」

「AIになると、その、私はどうなりますか?」

「AIになります」

「いや、その……私自身、この身体はどうなるのか、という質問です」


 タブレットに映る女性はそこで初めて笑顔になり、こう告げた。


「焼くか、刻むか、食べられるか。お好きな処理方法をお選び下さい」


 私はできるだけ痛くない方法を、と答え、その電源を切った。

 それからパソコンに向かい、スクリーンセーバーになっていた画面を元に戻す。そこにはAIに小説を書き続けた作家が実は最初からAIだったという、よくある結末の原稿が書かれていたのだ。

 私はその原稿を担当B氏に送り、電源を落とした。

 と、インターフォンが鳴る。

 ドアを開けるとそこには銃を構えたドローンが浮かんでいて、私は随分と早いお迎えだと思――


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