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わたしはしょうせつをかいた  作者: 凪司工房
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 担当A氏のメールにファンレターなるものが添付されていたのは、私がAIに小説を書くようになってから半年ほど経過した頃だった。


「AIがファンレターですか?」

「よく分かりませんが、技術部の人間がそういう実験でもしているんじゃないでしょうか。嫌なら断りますよ?」

「ファンならAIだろうと猫だろうと構いません。送って下さい」


 そう答えて送られてきたのは、ほとんど意味を成さない文章だった。ありがとうとごめんなさいと、楽しいとか悲しいとか、そういう単語の間に『空を見上げると淡い雲と透ける青があった』とか『涙を拭うことに意味があるなら私はハンカチを買います』とか、私が書いた小説とは一切関係ないと思われる文が散らばっているのだ。だから嫌がらせ程度に考えていたのだけれど、何通目からだろう。意味が通じるような文面に変わってきたのだ。

 

『作品の主人公の美代子はどうして光雄をふったのか、疑問に思いました』

『最近は悲しい結末が多いですね』

『私はバッドエンドが好きです』

 

 短い感想文は誰かが書いた、といっても遜色(そんしょく)なく、実際に私の小説を読んだ人間の仕業だとしか思えない。しかしこれらは全てAIが書いたものだというのが、担当A氏の回答だった。

 ひょっとすると壮大なドッキリでも仕掛けられているのかも知れない。

 私はそんな気すらしたが、小説を書くことはやめなかった。寧ろ、そのAIが返す感想文を読むことが楽しみになり、以前よりも小説を書く作業に力が入った。

 

 やがて感想文は感想という形態から私の文章、あるいは物語の構造や筋について言及し、時に提案という形での間違いの指摘や修正をしてくるようになった。最初の頃にも誤字の訂正や用語の使い方の間違いの指摘はあったが、そういった単純なものではなく、まるで校正作業をされているかのような内容に移行しつつあった。

 私はそのことについてA氏に尋ねたのだが、特に内容については確認しておらず、一度技術部の人間に確かめるという返答があっただけで、以降、それについての話は何もない。

 結局私はそのAIの感想文という形の校正、あるいは強制を受け入れ、書き直した小説をA氏に送るようになった。内容については一切メールに書かないでいたこともあり、A氏は何も言わずにそれを受理し、一度として「これは以前送られた小説ですよね?」と突き返されることはなかった。

 

 そんなやり取りが続き、ちょうど一年を迎えた頃だ。担当がA氏からB氏に変更された。


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