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わたしはしょうせつをかいた  作者: 凪司工房
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 キーボードを叩きながら私は原稿を直筆で書いていた人たちがいた時代に思いを()せた。

 原稿用紙という四角いマスをインクや黒鉛で書いた文字で埋めていく作業というのは、ただそれだけで肉体労働と呼んでもいいものだったろう。だが今やそんなことをしている物好きは絶滅危惧種だ。誰もがコンピュータ処理されるデバイスを使い、執筆という名のデジタルな筆と原稿用紙を使っている。

 それでも小説と呼ばれるものは変わらない。たとえスマートフォンで書かれていようが、エクセルを原稿用紙に見立ててマス目を埋めたものだろうが、はたまたボイス変換で出力されたものであっても構わない。

 近年はそれらに加え、AIによる創作支援を受けた小説を書く作家も少しずつ数を増やしている、と聞く。かなり便利だとは耳にしているものの、どうにも抵抗があり、手に付けてはいなかった。

 これでも私は小説家だ。

 これでも、というのは名を口にしたところで誰も知らない程度の、という意味だが、それでも書くことで何とか生計を立てている。仲間には兼業作家が多い中で小説を書くだけでやっていけているのは、私に才能があったというよりも、ただ運が良かっただけだ。

 

 今日も一本、小説を書いて送った。送った、というのは電子メールにファイルを付けて編集者宛てに送った、という意味だ。

 つい一月ほど前に声を掛けてくれた編集者Aは大手出版社に勤める人間だが、どうしてこんな名もない作家の私に声を掛けてきたのだろうと、最初は怪しんだ。当然のことだ。うまい話には昔から疑いの目をもって対処する。しかし彼の提案を聞き、私はそういう需要があるのかと納得した。


「ええ、ですから、小説を書くAIを作る為の学習素材としての小説を、書いていただきたいのです」


 人間が読むのではなく、コンピュータが読む小説を書け、というのだ。時代が進むとそんなこともあるのかと思ったが、相手が提示した金額は私から容易に拒否権を奪っていった。人間、金という銃口を向けられるとおいそれとは断れなくなる。

 小説の長さは特に提示されなかった。長くても短くても良い。それどころかジャンルも指定がなく、私小説の延長のようなものや、果てはブログ、日記程度のものでも構わないと言われた。流石に作家の端くれなのでそんな駄文は書けないと、毎回力を入れた短編や中編を送ってはいるが、果たしてそれで相手が満足しているのか、分からない。自己満足かも知れない。けれど大抵小説というのは自己満足なものだ。それを誰かが読んで面白い、楽しい、悲しい、切ない。そんな感情になってくれることがその自己満足に生まれる価値だった。


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