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N.O.  作者: 水晶人
1/2

咆哮か、或いは慟哭か(1)

あらすじでかなりふざけましたが、本編は暗い上に重いノリです。

残酷な描写がかなりあります。文字の上のもので、更に甚だ抽象的な描写ですので特に差し支えないかと思いますが、それでも苦手な人はユーターンして下さい。

また、このサイトでよくある主人公無双な物語でもありません。主人公は優秀ですが、ひたすら苦労し苦悩し苦戦します(その予定です)。

そういうのが嫌な方もユーターンして下さい。

あ、間違ってもパソコンの前でユーターンしたり携帯持ちながらユーターンしたりしないで下さい。ブラウザの戻るとかで前のページに戻ってください。水晶人からの切実なるお願いです。

長い前書きになりましたが、もしよろしければ拙作N.O.(ノーブレス・オブリージュ)のちょっと声を大にして言いにくい世界をお楽しみ……下さい?

 獣の遠吠えが、どこからか響いている。

 殷々と響くそれは、山林の隅々まで反響し、そこここに潜む小動物たちが慌しげに駆けてゆく。

 それを横目で見やりながら、素朴な山林には不釣合いな、銀色に輝く甲冑に身を包んだ人影が胸を張って堂々と山道を登っていく。

「この辺り、かしら? 猟師が襲われたというのは」

 完全に頭部を覆う型の兜の、面頬の隙間から覗く黄金の瞳が、周囲を見回す。腰の剣帯に下げた異様に刀身の薄い直角三角形の剣の柄頭に、右手が軽く添えられている。

 後背に負った黒く巨大な剣が、動作に合わせて重々しく揺れる。

「さぁ? 分かりませんねー。そもそも、こんな見栄えしない山道なんて、見分けがつくものなのでしょうか?」

 独白ともとれる言葉にそう返すのは、全身を黒で統一された、魔女の衣装のような服装に身を包み、背中に一輪の百合の花を模した身の丈ほどもある造形物を背負った少女だった。

「――イオ、うるさいから黙ってなさい」

「いやです」

 苛立ちを含んだ声に、イオと呼ばれた少女は素っ気無く返す。

「黙りなさい」

「断固拒否します」

「私の言うことが聞けないの?」

「いかにユリアお嬢様の命令とはいえ、精神と肉体の自由は認められて然るべきかと」

「どうしても、聞けないというのね?」

「無論です」

 一拍を置いて、死刑宣告の如き言葉が落ちる。

「……じゃあ、今度から、ベッドは別々にするわ」

「えぇッ!? そんな!」

 悲鳴にも似た叫びが木霊し、イオが絶望の貌で立ち尽くす。

「精神と肉体の自由は、認められて然るべきよね? イオ」

 全身を甲冑で固めた少女――ユリアはすまし顔で言うと、一寸前の事など無かったかのように視線を前へと戻した。

「お嬢様……イオは悲しいです」

 黒衣を顔を押し付けて嘆くイオを尻目に、背に負った巨大な剣と盾、甲冑が生み出す物々しい金属音を奏でながらユリアは山道を登っていく。

 どこまでも変わらない山林の風景に、銀色と黒の二人組は異様だった。だが、しばらく登ったところで、その異様さに相応しい光景が二人の目の前に姿を見せた。

 肺腑を侵す血臭が二人の鼻をつく。

「……なんて、こと」

 夥しい量の血が、春の山林を朱に黒にと染め上げていた。周囲の木々は半ばからへし折れ、純然たる暴力の跡には、数十という人の屍が、無残な様を見せていた。

「先行していた討伐隊は、全滅のようですね」

 その呟きは、目の前の惨状に対して、特段何も感じていない声色だった。鉛色の瞳が、無機質な色合いで骸の群れを眺めている。

「――そのようね。そして、何故、私たちに依頼が回されてきたか、その意味もようやく理解できた」

「そうですね、お嬢様」

 獣の唸りと、風を裂く音は同時に起こった。

 銀の閃きが収まると、上顎から上を切断された獣が、跳躍の勢いのままに地面を滑っていった。雄牛ほどの大きさの、灰褐色の塊が二人の間を横切る。

 二人の目線は、地面に激突して動かなくなった死骸から前へ。

 巨大な灰褐色の獣たちが、列を成してユリアたちの前に姿を現していた。

「北国に住むとされる巨狼と、こんなところで出会うなんてね」

「伝聞とは毛の色が違うので、もしかすると種類が違うのかもしれません。当然、詳しくは分かりませんけど」

「なら言わなくてもいいわよ」

 呑気な会話の合間にも、二人は巨狼の群れに包囲されつつあった。巨体に似合わない俊敏さで巨狼は瞬く間に二人を包囲する。

 それを気にする風でもなく、機動性を大きく殺ぐ背の大剣を放棄、既に右手に収まっている異様に刀身の薄い直角三角形の剣《閃くものアルーシャ》を構え、ユリアが無造作に前進を開始する。

 自身の脚よりも太い木々を軽々となぎ倒す、巨大な獣の突進を紙一重で避けて、軽やかに右手を翻す。綺麗に首を切断された巨狼の巨体が背後に飛んでいき、細い木を道連れに倒れる。

「流石はお嬢様、お見事です」

 無邪気な笑顔で囃すイオの背後で二匹の巨狼が跳躍。イオは背後を振り返る事すらせず、肘までを覆う黒い手袋を外して、天に突き出すようにして大きく腕を広げた。

 腕に彫りこまれた無数の閉じた唇の刺青が開き、絶叫。怨嗟と絶望の慟哭を上げる。

 そこから放たれた漆黒の奔流、歪な羽音を奏でる黒い塊が巨狼を瞬く間に多い尽くし、即座に巨狼の姿が消失。

 イオの周りに展開する漆黒の塊は、蝶の形をした口と牙だけの魔法生物の群れだった。ただその口と牙で獲物を貪り食う事しか考えない、数百数千の異形の蝶が、薄い笑みを浮かべるイオに従って一瞬で巨狼を削り食らったのだ。

「うふふ、ふふふふふふふふふふふ……! さあ、もっとお食べ」

 唇の刺青が叫ぶ慟哭に合わせて、黒い死神が山林を覆っていく。巨狼たちが警戒の声を上げて後ずさるが、無数の食欲の権化たちは我先にと巨狼に群がり、その牙で噛み付き、肉を骨を食らっていく。

 地獄絵図と化した背後を振り返る事無く、ユリアは更に前進。背に負った盾を左手に構えた完全武装で、戦車の如く突き進む。

 不用意に跳びかかってきた二、三匹を切り払ったところで、右手の茂みから飛び出した巨狼の牙を避けきれず、盾で受ける。

 恐ろしい力で盾が押し返され、牙が盾に食い込むが、ユリアは怯まない。しっかりと足を踏みしめ、倒されまいとする。

 動きの止まったユリアを見て、二匹の巨狼が両脇から襲い掛かる。

 ユリアは牙の食い込んだ盾をあっさりと手放し、背後に下がる。巨狼の顎が閉じられ、盾が嫌な音を立てて砕ける。

 後退に繋がる一連の動作で跳び掛ってきた一匹の右前足を両断し、無防備な眉間に左腕を突き込む。骨が砕ける鈍い音と共に巨狼が頭から落下。

 馬手側から襲ってきた巨狼に牽制として腰の投剣を数本投擲。一つが左目に命中するが、突撃の勢いは失われない。

 血涙を流しながらの突撃を避けられないと判断。首を狙う大顎を自ら後ろに倒れて何とか回避し、不安定な体勢のまま無防備な胸にアルーシャを突き立て、渾身の力を込めて振り抜く。

 巨狼の胸から腹にかけて赤い線が引かれ、落下する血と臓物の湿った水音と共に腹を切開された死体が地面に落ちる。

 流れ出る夥しい鮮血を浴びて、銀の甲冑が朱に染まる。

 体勢を立て直す間もなく、盾を噛み砕いた三匹目が至近に肉薄していた。大顎が開かれ、鋭利な牙と血色の口腔が目の前に迫る。

「――――くっ!」

 必死に首を曲げて、頭を砕こうとする牙の破砕器を避ける。同時に倒れこんでいたため、イオの頭と同じ程度の高さにある顎は僅かに外れた。閉じられた顎が鳴らす不吉な音が、獲物を逃した不快そうな唸りと共に山林の間に響く。

 難を逃れたユリアは左手を軸にして回転。鋼鉄に包まれたつま先が巨狼の側頭部を強打し、頭蓋を破砕する。衝撃で眼球がこぼれ落ち、巨狼は血を吐いて絶命した。

 更にユリアは上体を捻りながら半回転し、四肢をたわめ、大きく後方に跳び退る。

 その後背に、イオが飄々とした様子で現れた。手袋は外したままだが、唇の刺青は沈黙していた。

「大丈夫ですか? お嬢様」

「そちらこそ、無理はしてないでしょうね? イオ」

 声を掛け合い、互いの無事と戦意と確認する。

 巨狼たちは、二人がただの獲物では無いことを悟ったように、距離を置いて唸りを上げていた。並んだ牙の間から、唸り声と共に仲間を殺された怨嗟が漏れている。

「さて、と。これではキリが無いわね」

「山ごと焼き払うほうが、手っ取り早くて簡単ですが?」

「火で山や森は死なないというけれど、猟師たちが生活できなくなっては意味が無いわ」

 イオは頷くが、左手は背の百合の造作物――魔杖に触れている。

 イオにとっては、見知らぬ人間の生活などどうでもよく、ただただ目の前の敵を排除したい欲求に駆られていた。

 敵は多数。そして個々がただの獣とは訳が違う。そして足場が安定しない山林では、余りにも不利に過ぎた。

 イオの魔法ならば、一瞬で広範囲を破壊する事も可能だ。相手が密集している今ならば、全てとは言わずとも、半数は撃破出来るだろう。

 なにより――目の前のケダモノたちは、それ以上に危険だった。

 だが、お嬢様と慕うユリアの不興を買うのは、イオの本意ではない。溜息を吐いて、ゆっくりと魔杖から手を離した。

 攻めあぐねているユリアたちの前で、巨狼たちの群れが割れる。灰褐色の塊の向こう側から、銀色の巨狼がゆっくりと姿を見せた。

 雄牛ほどの巨躯をもつ巨狼の中にあって、銀色の毛色を持つそれは、一際巨大だった。美しい紅玉の瞳が二人を映し、真珠色の牙、血色の口腔を覗かせて、巨狼の長が言葉を発した。

「何故、貴様等は我等を害する?」

 静かな、しかし威厳と威圧感を備えた低い声だった。そして、隠し切れない怒りと悲しみが含まれていた。

「伝聞通り、巨狼は人語を解し、話すことが出来るようですね」

 場違いなほど呑気なイオの言葉。視線でそれを諌めつつ、ユリアは剣尖を下げて、一歩前に出る。

「――何故? それはこちらの言葉よ。貴方たちが猟師の一団を襲ったからこそ、討伐隊や私たちのような傭兵がここに派遣された。知性ある貴方たちなら、そんな事くらい簡単に理解できるでしょう?」

 油断せず、毅然と背を伸ばして答えながら、ユリアは奇妙な違和感を感じていた。

 巨狼の長は、伝聞に聞く巨狼そのものの姿であるのに対し、周囲のそれらは灰褐色の個体ばかりである。

 巨狼などの、社会性動物の中でも特に限定された地域に固定して生息する種は、非常に仲間意識が強く、反面、排他的である。種が違うのでなければ、この違いはどこから生まれたものなのか。

 なにより、巨狼の言辞は、自身が被害者であると考えているようにしか思えない。

 どういう事なのかを考えている内に、巨狼の長が言葉を投げかけてきた。

「我らは警告した。これ以上進めば、命はないと。それを無視して、こちらを害する行いをしたのは、貴様が猟師と言った人間の方だ」

「だから、皆殺しにしたと?」

「そうだ。貴様等が我等を排除して貴様等の安寧を得ようとするのと、同じ事をしただけ」

 巨狼の主張は、確かに的外れなものではない。獣の縄張りに足を踏み入れ、尚且つ警告を無視した猟師こそ愚かだったのだろう。だが、どこかおかしい。

 ――いや、そもそも、何故こんなところに巨狼がいるのか。

 伝聞によれば、巨狼とは遠い北の国に住み、銀の毛並みと紅玉の如き瞳、そして言葉を話す事から神獣として畏れられ、崇められている存在だという。

 知性と社会性を持った獣としては排他的ではあるが、決して無闇に人間に牙を向けるような危険な存在ではなく、むしろ比較的友好的な種族だ。

 現地の人々とは少なからず交流があり、境界線を敷き、みだりに互いの領域を侵さないようにして友好関係を保っている……その筈だ。

 だが、現実は伝聞をことごとく裏切っている。答えの見えない疑問ばかりが累積していく。

 内心の疑問を保留にして、ユリアは口を開いた。

「しかし、それが愚行だという事は、簡単に理解できるはず。これだけの被害が出れば、如何に斜陽の帝国と言えど、黙っている訳が無い。直にこれとは比較にならない大規模な討伐隊が組織され、本格的な山狩りが行われる。そうなれば、どうなるかは想像に難くないでしょう?」

「そうだな。そして、我等は地獄に落ちるのだろう」

 紅玉の瞳が、愁いの輝きを灯す。泥と血に塗れた銀の毛皮が、風を受けたように波打つ。

「なれば、我等は戦おう。我等から故郷を奪った人間を、より多く殺すために」

「故郷を、奪った……?」

 憎悪が滴る巨狼の言葉を聞きながら、ユリアは理解した。

 巨狼たちは、既に追われていたのだ。何故かは与り知らないところだが、こんな南まで南下してこなければならないような事態が、人間の手によって起こされた。

 であれば、彼等の、巨狼たちの憎悪はもっともだ。故郷を奪われた憎しみが、自制さえ効かずに、凶行に駆り立てているのだろう。

 だが、間違っている。命を捨ててまで、復讐に生きるなど無益過ぎる。しかし、ユリアにそれを語る資格も権利も無かった。

「だとしても、人に仇をなす存在を、私は無視するわけにはいかない……」

 アルーシャを鞘に戻し、丁度傍に転がっていた大剣を拾い上げる。アルーシャとは全く反対に、黒く厚い刀身を持つ、重量によって対象を叩き潰す事を旨とする大剣《断頭台ヒルダ》の二等辺三角形の刃の切っ先が、真っ直ぐに巨狼の長に向けられる。

「貴方たちが、これ以上無用に人々に害をなさないと誓うなら、私たちはここで退く」

 ユリアの言葉に、イオが魔杖に手を伸ばし、ヤマユリに似た優美な花の造形物を振り上げる。

「誓わぬと言うのなら……ここで、殺す」

 放射されていた殺意が爆発的な熱波となる。巨狼たちが牙を鳴らし、大地に爪を立てた前足の筋肉が倍ほどにも膨らむ。目の前で燃え盛る業火の熱が、二人に吹き付けるかのようだった。

「――何故」

 巨狼の長が、殺意に満ちた同胞を眺め回して、小さな声を漏らした。

「何故、貴様は戦うのだ? その、人では無い身で、人のために――?」

 ヒルダを両手で構えたユリアの脚が、不安定な山道をしっかと踏みしめる。

「ノーブレス・オブリージュ。それが答えよ」

 巨狼の長が顔を伏せ、その横を無数の同胞たちが疾風となって駆け抜ける。

 ユリアが迎撃の姿勢を取るのと同時に、イオが掲げた魔杖《狂い咲きグローリー》の花弁が展開、内部に納められた単眼の如き赫い魔石が妖しい輝きを放つ。

 花弁の内側を埋め尽くす呪印が眩い輝きを放ち、開いた花弁の頂点を縁として魔方陣が展開、魔法が発動する。

 発動した魔法が何であるかを考える余地も無く、後ろから伸びてきたイオの手でユリアが後ろに引きずり倒される。全身を甲冑で鎧い、巨大な剣を構えていたユリアは成す術なく転倒する。

 巨狼が驚愕に目を見開く。と同時に、イオの唇が酷薄な笑みを浮かべる。

 魔方陣から放たれたのは、暗褐色の大瀑布。怒涛の如く放たれた液状金属の大津波が、巨狼や木々を恐ろしい速度で飲み込んでいく。

 多くの魔法使いが扱う圧縮した水や氷などとは比べ物にならない比重を誇る液状金属の波が、巨狼の堅固な毛皮や筋肉などなんら問題とせず、悲鳴さえ飲み込んで瞬時に圧殺していく。

 暫くの後、液状金属が勢いを失って逆流してくるのを見て、イオが魔方陣を反転、暗褐色の海が魔方陣に吸い込まれて消えていった。

 後に残った、見渡す限りが金属の大津波によって破壊し尽くされた凄惨な光景を、ユリアは座して眺めるしかなかった。

「……凄い魔法ね、イオ」

「一応、イオの切り札の一つです。密集していて、尚且つ突撃してくる大群を迎え撃つには最適かと思ったので」

 無感動に告げるイオだったが、残念そうに山頂辺りに視線をやった。

「どうやら、魔法を放つ瞬間に逃げたのがいくつかいるようです。あのデカイのも、多分取り逃がしました」

 位置が逆なら大半を殺せたのに、とイオは可愛らしく唇を尖らせる。

「追いますか?」

「……いいえ、もう日が暮れるわ。夜闇の中では更に不利になるわ。一旦山を降りましょう」

「お嬢様がそう言うなら」

 魔杖を背負い、イオが素直に首肯した。ユリアは重い溜息を吐いて、ヒルダを背に負い、アルーシャを鞘に収めた。砕けた盾は、放置する事にした。

 視線を空にやると、既に山頂付近に日がかかっていた。巨大な朱の円盤が、山の惨状を朱色に染める。

「……ねえ、イオ?」

「はい?」

 揺らめく夕日をぼうっと見上げながら、ユリアは低い声音で言う。

「巨狼たちは、あちら側に逃げたのよね?」

 銀板に覆われた指が指すのは、山頂よりやや北にずれた方角。

「ええ、私が見た限りでは、ですけど。それが何か?」

「……確か、あちらには、中腹辺りに小さな集落があると聞いた」

 その小さな声には、迷いと、痛みの成分が含まれていた。

「彼等は、どうすると思う? イオ」

 主体の無い曖昧な言葉。それは己の不明による弱さだと、ユリアは己を恥じるより他になかった。明言できないという事は、覚悟が足りないという事。

 あの日、墓前に花を添え、涙と共に誓ったあの日、相応の覚悟はしたつもりだった。

 だが、現実はどうだろう。自分は今、泣いているのではないだろうか……?

 ユリアの内心を知ってか知らずか――いや、人の心を測ることを知らないイオは、至って平然とした調子で言った。

「まあ、皆殺しでしょうね」

 須らくそうあるべしと言うように、イオは無表情だった。

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