第5話 兄弟
「ふーん、あんたがライズの婚約者か。成程、こりゃ酷い」
昼食の最中、昨日は出掛けて屋敷に居なかったライズの兄二人が帰宅する。
長男のガイルは背が高く、がっしりした体つきをしており。
乱雑に刈り上げられた赤毛に、髭を生やした野蛮そうな見た目をしている。
一方次男はかなり華奢で細い。
肌はぼさぼさに乾いており、その目は病的なほどに落ちくぼんでいた。
かなり神経質そうな印象を受ける人物だ。
彼らは帰って来るなり私の姿をまじまじ眺め、長男のガイルは私の挨拶を無視して、辛らつな言葉を浴びせて来た。
失礼極まりない行動だが、私は何も言い返せずに俯く。
「よさんかガイル!アリスさんに失礼だろう!」
ボロワール男爵が注意して下さるが、長男のガイルは「ふん」と鼻を鳴らしてその言葉を無視する。
どうやら見た目通り、かなり傍若な性格をしている様だ。
次男のハインは私への中傷を口にこそしなかったが、その目は明かに汚物を見るそれだった。
どうやら、私はこの2人に歓迎されていないらしい。
まあそれが普通の反応で、温かく迎え入れてくれたライズや男爵夫妻が特別なのだろう。
「ガイル兄さん。彼女は僕の婚約者だ。いくら兄さんでも、暴言は見過ごせない。彼女に謝ってくれ」
「なんだと!三男のお前が長子の俺に歯向かう気か」
「兄さん……僕は同じ事を、2度は言わない」
「うっ……」
ライズの1段低くなった声色にガイルはたじろぐ。
どうやら、見かけや態度の割に肝は小さな様だ。
「ふ、ふん!悪かったな!これでいいんだろうが!」
およそ謝罪とは言えぬ態度と言葉を放ち、彼は部屋を後にする。
それにヘイルが続いた。
「すまないアリス。兄達が失礼な事をしてしまって」
「ごめんなさいね。あの子達、弟に先を越されてやっかんでるのよ。どうか許してあげてね」
「い、いえ。私は気にしてませんから」
まあそれは嘘だ。
分かってはいた事だが、あそこまでハッキリと見た目の事を言われると流石にきつい。
だけど、我慢しなくっちゃ。
家から放逐された私には、もうここ以外居場所はない。
正直不安でいっぱいだけど、何とか上手くやって行くしかないだろう。
「大丈夫だよ」
ライズが私の側に来て手を握ってくれた。
それだけで不安が和らぎ、心が軽くなる。
「ありがとう」
素直な感謝の気持ちが自然と口を付く。
彼の心遣いが純粋に嬉しい。
私の事を見てくれる人がいると思うと、それだけで頑張れる気がする。
少々気まずい雰囲気ながらも昼食を済ませ、私はライズに連れられ研究室へと向かう。
そうお薬の時間だ。
正直、人様からの心ない中傷よりも、こっちの方が遥かにきつい。
早く薬を改良して貰いたいものだ。