第4話 錬金術
「これを……全部飲むの?」
丘から戻った私は、屋敷の離れにある彼の研究室へと通される。
そこには見た事のない色のガラス瓶や、金属製のよく分からない何かが並んでいた。
ライズは棚から徐に小瓶を取り出し、それを私の前の机に並べる。
彼が言うには、これは薬だそうだ。
毎日これを飲めば、火傷の後はいずれ綺麗さっぱり無くなるらしい。
目の前に並べられた小瓶の数は26本。
中身は全て違っており、一度にこの26本全てを飲む必要があるとの事だが。
「ごめんね、アリス。今の僕の技術と材料じゃ、これが精一杯なんだ」
瓶は一本50ミリぐらいある。
それが26本となると、全部で1,3リットル程になる。
その量をほぼ一気飲み。
しかも治るまで毎日。
もはやちょっとした拷問だ。
だがこれで火傷の後が治るのなら――
私は意を決し、そのうち一本の蓋を開け一気に飲み干した。
「ぅっぐ………」
まず!
ちょうまっず!
薬はびっくりする程不味かった。
良薬口に苦しとは言うが、物事には限度と言う物がある。
そして、今口にした薬は軽くその限度を飛び越えていた。
まさか他の25本もこんなエグく無いわよね?
たまたま今口にした薬が、一番きつい奴だったに違いない。
口元を押え涙目でライズを見ると、彼は気まずそうに視線を逸らした。
どうやら、他の物も同じレベルである様だ。
ちょっとした所では無かった。
これは純然たる拷問だ。
「んんんん!!!!」
だが私は挫けない。
この苦痛の先に、在りし日の美が待っているというなら。
ならば乗り越えて進むだけよ!
私は吐きそうになる辛さを堪え、1,3リットルもの薬を全て飲み干してみせた。
「大丈夫かい?」
気付けば、私はベッドの横に寝かされていた。
どうやら薬を飲みほした後、気絶してしまっていた様だ。
「すまないアリス。僕がもう少し何とかできていれば……」
「良いのよ、ライズ。この位、どうって事は無いわ」
勿論どうって事はある。
だって完全に拷問だったもの。
あれをこれから毎日飲み干すのかと考えると、再び意識が遠のきそうになる。
でも――私は負けない。
「私、耐えて見せるわ」
醜く変わり果てた姿と自分の最悪の境遇に、一度は死を覚悟した身だ。
これぐらい耐えて見せる。
「出来るだけ早く錬金術で薬を改良するから、それまでは耐えてくれ」
薬は改良できるのか……良かった。
その言葉を聞いて心の底からほっとする。
しかし――
「錬金術っていうのは?」
聞いた事のない単語だ。
それがいったい何なのか、気になって私は尋ねてみた。
「ああ、もう一つの転生チートさ。物質と物質をかけ合わせる事で、全く別の物質を生み出す技術だよ。例えば土から薬を作り出したり出来るチートパワーさ」
「凄いのね」
今の説明ではあまりピンとこなかった。
さっき見せて貰った魔法がすごかっただけに、どうしても今一地味な能力に聞こえてしまう。
そんな事は全然ないんでしょうけど。
「もうお昼も回ってしまっているし、屋敷に戻ろうか」
そう言うと彼は私を抱え上げ、車いすへと座らせる。
「そうそう。君が意識を失っている間、錬金術と魔法で車いすを改良しておいたよ。その摘みを軽く前に倒してみて」
右手の手すり部分に、さっきまでなかった小さな棒が取り付けられていた。
私は言われるがままに、それを前に倒した。
すると車椅子が勝手に前に動きだす。
「うそ!凄い!」
摘みを後ろへと倒すと後ろに。
左右を倒すと向きが変わる。
なにこれ!?
凄すぎる。
ライズの顔を見ると、ニコニコと微笑んでいる。
「さ、行こうか」
そう言うと、彼は研究室の扉を開けてくれる。
私は彼に頷き。
つまみを使って車椅子をコントロールし、自力?で屋敷へと戻るのだった。