Ⅵ 恐怖
今回説明多い気が……
魔物の数が増えてきた。
今は薬剤師をやってはいるものの、元冒険者であったヒナミは今なお複数の魔物の相手をものともしない……というより相手にすらしていない。
いまは時間が惜しい。そうこうしている間にも人が死んでしまうかもしれないのだ。
ヒナミははっきりいって強い。この辺りの魔物は相手にもならないだろう。
だが如何せん数が多い。一瞬で片付けられる様な相手とはいえそれでも僅かながらに動きを鈍らされる。
そのわずかな時間が命取りなのだ。
「……ッ!!見つけた!」
見慣れない魔物だ。
ムカデのように見えるその魔物は、しかしあまりにも大きい。
腹に見えるその緑の袋は毒か何かを含ませているのか?とすると使われると危険だ。だからといってむやみに破壊する訳にも行かない。
「ぁぁぁあああああああ!!!!!!もう嫌だァァァァァァァァァァ!!!!!!」
その青年はあまりの恐怖に壊れたのかもう逃げることも無くその場で丸まり叫んでいる。
辛うじて何かを言っていることは聞き取れるが殆どが支離滅裂で理解が難しい。
「スリープ、リラクション」
広範囲に向けて相手を眠らせる魔法を使用。青年と魔物を同時に眠らせる。叫ばれたままだとほかの魔物を呼び寄せる可能性が高いからだ。
あとは精神安定の魔法を青年にかけ、間にたち、魔物と向き合う。
その際、ローブは外れ、素顔が丸見えになってしまうが他に人もいないので隠す理由もない。
ほかの魔物は眠っているが、ムカデの魔物はかろうじて起きているらしく、動きは鈍いがそれでも新しく現れた獲物を見ている。
だが相手が悪かった。
「ボム、固定、繰り返し発動し結界を発動。対象。巨大ムカデ。閉じ込めることに成功し次第、全開放」
ムカデの周りを透明な壁が覆う。
そしてその壁が隙間なくムカデを囲んだ瞬間……
音もなくムカデが四散した。
今使用した魔法は中級魔法ボム。
名前は安直なものだが威力が高く、消費魔力も意外に少ない。
だが欠点として、効果が広すぎることと騒音を立てることである。
そのために結界を使用し、振動を完全に遮断。
音は振動である。そのため、その振動を完全にシャットアウトする事で、無音での爆発を成功させた。
だが、ボムは範囲は広いものの、爆発の余波では思ったよりダメージを与えられない。
そのため、固定を利用した。
この魔法は超上級魔法の1つであり、更に、考案したのはヒナミである。
命あるものの時間は止められないがその他物質の時間を止める事が出来、今回は魔法、ボムを固定した。
そしてムカデの逃げ道を塞いだ後、固定したものを全て起動。
するとボムの魔法を同時に使用することが出来た。
爆発と密閉空間での強力な振動。これによりムカデは完全にバラバラになったのだ。
「さて」
後はこの青年を連れて帰るだけだ。
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目が覚める。
知らない天井だ。
だが何となく何があったのかは思い出せる。
いつも通り薬草を最終日していた時、影がかかる……その時、僅かだが影の全容を見ることが出来たのだが……2人だった。人間。
そして目が覚め魔物に襲われ逃げることになる。
息も絶え絶えになりもう終わりだと確信した瞬間……
スリープ、リラクション。
この言葉が聞こえた。
途端、眠気が襲い、同時に気分も落ち着いてきたので名前的にもそういう魔法なんだろうと言うのは理解出来た。
……あの時、眠気により意識を失う前……俺とムカデの間に入ってくれた女の子は……誰だったんだろう。
ロングヘアーの黒髪に赤い目。
それ以外は分からなかったがその少女が助けてくれたのは確実だろう。
とりあえず身を起こす。
何だか体が重い感じがする。
立とうとするが、上手く力が入らない。
それでも何とか立ち上がり、壁伝いに部屋を出る。
「あ!起きたんですか!?無茶しないでください、1度戻って戻って!」
出た瞬間に若い少年がいた。
両手いっぱいに資料を抱えていることから何か事務作業をしているのだろうか?
怖い
少年に方を貸してもらいながら先程の部屋に戻ることになる。そしてベットに再び眠らされる。
「ここは……?」
「ここは冒険者ギルド3階、関係者使用空間です。とはいえ緊急も兼ねていた事ですし医療機関も何やら手が混んでいたみたいで……なのでこちらで貴方の身を預からせてもらいました。」
どうやらいつも通っているギルドの3階らしい。
初めて入る空間なので、少し緊張する。
怖い……来るな
「……何か必要なものはありませんか?結構長く眠っていたので食事などは……」
「大丈夫……です。でも、しばらく……1人にさせてください……」
「…………分かりました。何かあったらここの作業員に声をかけてくださいね」
そう言い、部屋から出ていく。
途端に、冷や汗が出てくる。
一瞬、どういうことかと驚いたが、すぐに分かった。
人が……怖いのだ。
恐らく理由もわからずいきなり拉致され、死にそうになったことが関係しているのだろう。
そう理解した途端、考えないようにしていたことが頭をよぎる。
ーこのままここにいていいのか、またどこかに拉致されるんじゃないだろうか、もしかしたら直接殺されるのではー
呼吸が止まる。
吐きそうになるのを必死にこらえ、恐怖から逃げるように眠りについた。