Ⅳ 不穏な空気
今日もいつも通り薬草を採取している。
探知。おおー、あるある。あっちが多いかな?
そしてたどり着いたら鑑定。
どれが薬草なのかが簡単に分かる。
なのであとは葉を傷付けないようにしながら茎を途中から切る。
完全に切り離すことに成功したことが分かったらあとはそれに魔力付与を行う。
見た目は何も変わっていないが何となく、どれが付与したのかが分かる。まぁ自分の能力なのに分からなかったらやばいもんね。
それをまずは1時間行う。そしたら一旦休憩。
流石にずっと採取をしていると腰が痛くなってくる。
体を伸ばしてほぐしたら一旦探知。そして念の為隠密を発動。
隠密の欠点は発動する瞬間を誰かに見られていると効果を発揮しないというものだ。
その為、近くに魔物がいないことを探知で確認したあと、隠密を発動する。
実際はずっと発動しているのかもしれないが、検証した訳では無いので、念には念を入れることにしている。
そしてだいたい1時間くらい休憩したらまた採取を行う。
それがいつも通り。この世界に来て、ギルドへ登録してからは若干の効率の変化もあるが、こんな感じに過ごしてきた。
だがふっと影がかかったと思った時には強い衝撃と共に俺は意識を落とした。
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「あ!ヒナミさん!お久しぶりです!」
私はギルドで受付を担当しているリナ。
実はギルドの受付しごとは昼になる2時間前はあまり人が来ない。
来るのは依頼をする人か、朝遅めに活動する人、あとはこの冒険者ギルドとは関係ないギルドの人達くらいだ。
大抵の冒険者は朝早くに活動し、昼前に一度帰ってくる人が多いため、今の時間は受付とは関係ないことが多い。
そして今来た人、素顔を見せないように深くローブを被った彼女、ヒナミさんはポーション作りの薬剤師だ。
本人は余り人前にでず、製作者名も偽名で登録してあるため、彼女が実はこの街でもトップクラスの薬剤師だということは殆ど知られていない。
知っている者はトップクラスの薬剤師の1部や私のような彼女と親友である者、あとは余程腕のいい”裏”のスパイをしている人間位だろう。
「今日はどうしたんですか?」
彼女は余り人前に姿を表さない。それは目立とうとしていないということではなく、そもそも調合室から出ないことがほとんどだからだ。
出るとしたら食材の買い出し、特別な用事、もしくは余程気になることがあった時くらいか。
「例の薬草……前は数が少なくなったけど最近はかなり増えてきた。何人があの薬草を取ってるの?」
おっと、その話か。やっぱりヒナミさんでもあの薬草のことは気になるみたいだ。
本来名前を聞くことはマナー違反になるのだが、彼女はあくまで人数を聞いているだけであって、誰が取っているのかは聞いてきていない。
なのでここは素直に答えることにする。彼女の反応も気になるからだ。
「1人ですよ」
おお~あのヒナミさんが呆けてるよ!いつも何があっても聞いてないか興味無いかで反応を示さないのに。
「……あれは今までに見た事も無い高品質の薬草だった……それにあれは調べて見た感じ大きく魔力を伴っていた。なんの魔力だかは分からないけれど……それでもあの高純度の魔力を帯びた薬草なんて普通じゃない。余程危険地帯に行かなければ……」
おっと?こうなるのが彼女の癖だ。
いつもは無口で何を考えているのか分からないのに一度興味を持ったことには途端に饒舌になる。
とはいえローブから除くその口元を見れば楽しんでいることは分かるだろう。
「そんなに興味があるなら接触してみては?私たちは個人に関する情報を教えるのは禁止されていますが、私達が関係していなければ余程のことがない限り無干渉なので」
「ん、とりあえず姿だけでも確認してみる………ちなみにその人はどういう……」
「それは個人情報に入るので伝えられませーん」
「……チッ」
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数時間後
「遅い……」
「おかしいですね?いつもはこの2、3時間くらい早く帰ってくるのに、何かあったんでしょうか?」
「冒険者が何かしらのトラブルに巻き込まれるのは当たり前……でもなんでよりにもよって今日に……」
実は彼女は今は薬剤師をしているものの、元冒険者稼業を行っていた。
だがある時、組んでいたパーティーの問題で冒険者を続けられなくなり、その時偶然拾ってくれた調薬ギルドの1人に救われたのだ。
その時に調薬について学んだのだが、彼女はこちらにも大きな才能があったのか、あっという間に薬剤師の中でもトップの方に躍り出た。
まぁ話がかなり脱線してしまったが、彼女は元冒険者、それもかなり上位の人だったため、突然のトラブルを当たり前と感じている。
だが、彼女は彼のことを知らない。
「……あの人には戦う力なんて”一切”ありません……もし魔物に襲われたのだとしたら……それは致命的な状況と言えるでしょうね……」
「ッ!?」
彼女はその冒険者だった時、知り合いを2人なくしている。その2人は彼女を育てるのに大きく貢献したため、彼女自身、その人たちのことを尊敬していた節がある。
だが、彼らが死んでしまった時、彼女は大きく絶望し、その時に大きく感情を無くしてしまった。
今の状況がそれと関係しているのかは分からないが、少なくとも無関係とは言えないだろう。
その為、ヒナミさんは誰かが命の危機に面している時は助ける。例えそれで自分が傷つこうとも、助けようとする。
だから薬剤師は彼女にとって天職とも言えたのだろうか?
だが今はそんなことは関係ない。
杞憂であったらいいが、一度芽生えてしまったその考えは無くなることがない。
私は報告もされているため、ある程度は彼がどこら辺を探索しているのかは知っている。もし彼がその報告が虚偽のものでなければ、少なくともその場所のすぐ近くにいるだろう。
本来一個人の情報を教えるのはダメである。もしそれを教えようものなら私は受付嬢失格だろう。
確実な理由があれば……
「あ、そういえば、つい先日、とある薬草採取の依頼を受けている例の青年を付け回している2人組がいましたね、一応注意はしたんですが、門番の話によると、今日も着けて行ったそうですね……本当に……」
「……ふーん、それは普通に違反……私も一応元冒険者、マナー違反は注意しないといけない……かも」
流石だ、たったこれだけで私が何を言いたいのかを察してくれた。
「えぇ、注意してください。貴方ほどの実力者ならば例え武力行使にでられても抵抗できるはずですしね。それにかなり悪質なようですし、早急にしてもらわないと困ります」
「そう、それじゃ、注意してくる。どこら辺にいるかはわかる?」
「えぇ、どうやら南門を出た先にある森、西方面に行くと途中で開けた道があるそうですね。その道を進んでいくとどうやら途中で木が変わるみたいです。その辺で東へ進むとどうやら薬草の群生地が、あるそうですよ?そこで例の青年は薬草を摘んでいるらしいのですが、どうやら2人組もその場所で取ってきてるようですね」
「分かった、それじゃ、行ってくる」
……これで私の仕事は終了だ。あとはマスターをどうやって説得するか……