- 変わらなかった世界
第一章最後(予定)の閑話です。どうぞ
辺りは瓦礫で埋まっている。所々に燃え残りの炎が揺らいでいる。
この世界は何度か見た。
むしろ見すぎて見飽きた程だ。
何度も何度も、小さな変化の積み重ねが大きく未来を変える。
何度も何度もやり直し、それでも最後はバットエンド。
目の前でまた1人死んでいく。
助けて、助けてという声。
殺してやる、呪ってやるという声。
あの人がまだという声。
「どれも死んじゃったら意味ないよね」
1人、金髪の少女は呟く。
「さて、次に行かないとね。時間をおいちゃ、何をすればいいのか忘れるし」
だけどもそこで邪魔が入る。
黒髪、ポニーテールのピエロの面を被った人。
そいつが少女に斬りかかる。
そして少女はそれに見向きもせず受け止める。
「アッハハ?私はあんたの事、昔は尊敬してたんだよ?それに天狗になってた私に喝を入れてくれたのもあんただし」
面を被ったそいつは反応を返さない。
かわりに懐から何かを取り出し、それを少女に投げつける。
それを少女は手に持つ剣で何も無い所を切ったと思ったらその”何も無い所に”投げつけられたものは消えた。
「昔のあんたは強かったよ。無能力のくせに、その時期強者とも言われてた私を純粋な技術だけで優勢にたってたんだからさ?でも今は?腐った奴から譲り受けた道具を使って本人の力量とは無縁な方法で相手を追い詰めようとして。それでも私にゃ届かない」
面を被ったそいつは時間が経つにつれて、苛立ちを隠さなくなる。
「いい加減、目ェ覚ませよ」
その一言に、そいつは一瞬揺らぐ。
だがそいつは初めて言葉を話す。
「お前に言われたくはない」
その言葉を聞き、一瞬少女の表情が消える。
だがすぐ先程の笑ったような表情になり言う。
「”後悔”は既に過去を断ち切ったぞ?”憤怒”のアンタはどうなんだ?」
「あんな奴に興味はない。それに……アイツは過去を断ち切ってなどいない!取り戻しただけだ!正真正銘、取り戻すことなど出来ない私と一緒にするなァ!」
初めてそいつは叫んだ。心から、悲しげに。
「んじゃ私はどうなんだ?」
それは少女の純粋な疑問だった。
その一言にそいつは言葉を発することが出来なくなる。
「なぁ、なら、”俺”は一体どうなんだよ」
それ以上の言葉はなかった。
そいつが切り込み、少女が受け止める。
だが守りをしているはずの少女の方が優勢。力の差は歴然としていた。
少女の持つ剣が刀に変化する。それと同時に構えも変わる。
「今アンタが持ってんのは魔剣。あの時、私が使っていたのは属性剣だからちょっと違うけど……けど、これであの時の再現にはなったんじゃない?状況は逆だけど」
何度も、何度でも少女はそいつに言葉をかける。
だけど返答はない。
そいつが横薙ぎに切り払うと少女は刀を縦にして受け止める。
「普通の刀じゃ、技によっては簡単にポッキリいっちゃうけど、生憎様、この武器は特殊だからね、壊れることは無いよ?知ってるよね」
そういい、少女は剣を弾き返す。その衝撃をそいつは利用し、回転。そのままの勢いで逆側から切りつける。
だがそれも容易く少女は受け止める。
「昔のあんただったら、そんなにハンデ気にしなくても私を追い詰めるなんて余裕だったんじゃない?弱くなってるよ」
そういい、少女は空いた逆側の脇腹を思いっきり蹴る。
だが蹴ったなんて生易しいものではなく、そいつは体をくの字に曲げ、目に見えぬスピードで飛んでいく。
そしてそいつはいくつかの瓦礫にぶつかりとまる。すぐにそいつは辺りを見回すが横から少女の刀が飛んできた。
それを手に持つ剣で弾いた瞬間、声が聞こえる。
「結構これ、古典的な方法だよ?」
投げられた刀はフェイク、本命は上。
かかと落とし。だが勿論威力は普通じゃない。
だがそれすらもそいつはすんでのところで躱してしまう。
だが
「残像だ……やっぱり言ってみたくなるよね、これ」
上から来た少女の体がぶれ、消える。
そしてその残像の後ろから刀を持った少女が飛んでくる。
そいつは何とか鍔迫り合いに持ち込んだがこちらは半ば座ったような姿勢となっている。
上から押し込むような形の少女の方が圧倒的に有利。
だったのだが、その無茶の姿勢から少女を打ち返すことに成功する。
「わっ……とと、突然力強くなった?」
「確かに……」
と、そいつはまた声を発した。
「確かに、今の私は外道へと成り下がった。そして今、私は道化を演じている。だがそれの何がお前と違うんだ?」
その質問に対し、少女は答えない。だが一瞬だけ。誰も気づけないような一瞬だが、刹那の時間に生きているものだけが気づくその致命的な時間。それをそいつは狙った。
相手の心臓を狙った突き。それも魔剣の力により、力、スピードを上乗せした一撃。
さらに少女の刀を持つ腕は、先程の鍔迫り合いで弾かれた時の反動ですぐには立ち直せない。
でも……
「”見える”速度じゃ私にゃ勝てんよ?」
それを逆の手。その指で受け止める。
そして、受け止められた剣は目に見えない力により、破壊される。
「……ここらが潮時か……」
剣を壊されたそいつは、その言葉を最後に、消えていった。
「今のあんたにゃ負けられないからね」
そして少女……シェリーは1人佇む。
「道化……ねぇ」
シェリーは、戦い始めてからたった一度、それも一瞬だけしか表情が変わっていなかった。
ずっと、顔には笑顔が張り付いて。
誰も。恐らく、本人でさえも……
瞳から流れる水滴には気づかずに




