ⅩⅣ 第一章、対象患者治療準備、開始
ヒュっと。
そんな音すら聞こえることなく、気がついた時にはヒュームの首と体は離れ離れになっていた。
「……え?」
一体何があったのか、それすらも認識できなかった。
ーーー……戦闘終了判定……かーーー
「?」
ーーーあぁ、気にしないでー、こっちの話ーーー
「ねぇ、あなたにまだ聞きたいことがあるんだけど……」
ーーーんー?あー、ごめ、今回はやめて、ちょっと色々無理しすぎたなぁ……ーーー
なんだかは分からないが、かなり負担をかけさせたようだ。
「その……ありがと……」
ーーーえ?ーーー
「う……え?」
ーーーちょっと?あの人何やってんの?ちょっと?ーーー
突然声が慌てる。一体何が……
ーーー急いで!あのバカ!!こんくらいでさぁ!ーーー
「……ッ!森平!?」
恐らくこの人が言っているあのバカというのは森平のことだと思う。
何かあったのか……急がないと!!
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side:森平
なんで今までこんな簡単なことに気が付かなかったんだ?
目の前には川。透き通った綺麗な川だ。魚も泳いでいる。
足が重い。思考がままならない。
だからこんな事を考えるのだろう。
………疲れた。疲れたよ。
さっさと死んじゃえば良かったんだ。
そうすればすぐに終わる。この絶望は。
そうして、俺は川に身を落とした。
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……見えた!森平だ!
「森平!!」
呼びかけるが反応がない。
ーーー……時間が……チッ……サポート増やす!!歪め!ーーー
瞬間、周りの動きが遅くなり、私の動きが速まる。
これは……クイックとスロウ?でも何か感覚が違う?
……とりあえず急がなくては……!?
川に飛び込んだ!?
「森平!!」
咄嗟に私は川に入り森平を助けようとする。だが、突然の事で頭がろくに回っておらず、息を吸い込むのも、魔法を使うのも忘れていた。
(やっぶ………)
ーーー断絶!ーーー
息が楽になった?とりあえず川から出さなくては………森平?
……息……してない?
ッ!?
「待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って待って!!どうにかしないと……どうにか……えっと……」
ーーーんー………これは……怪我じゃないから治癒は無理か……となると蘇生系?とはいえ私にゃそんなもの昔に使えなくなったし……ーーー
「お願い……死なないで……ねぇ……」
ーーー………あ~~……あー、んー、ん?契約は?ーーー
「……え?」
ーーーいや、こっちにあんのかは知らんけどさ?契約の中には自分の命を対価にする契約方法があるんだけどそれなら治せるかな~って……ーーー
「……」
ーーーあはは~……まぁ流石にそんなことはしな……ーーー
「教えて……」
ーーー………マ?ーーー
「早く!」
ーーー……はいはい、まずは……星の巡りを媒体にして流れを読んでそこに自分の血液を……あー!もう!説明めんどくさい!道具貸すから!それ使えば楽になる!はい!ーーー
「えっ!ちょっ!?」
突然目の前に水色の、先端に丸い球体が浮いている不思議な形の杖が現れた。
ーーーとりあえずそれに自分の血をつけてーーー
「分かった」
とりあえず杖の下部分に先程の戦いで流れた血をつける。
ーーーん、次にその血を……んー、口かな?そこが1番やりやすい、そいつの口に含ませてーーー
「……杖ごと?」
ーーー杖ごとーーー
……絵面ヤバいが大丈夫かな……
ーーー後はこっちでやるから。一応何かあってまた必要になった時のためにやり方は”刻んでおく”けどさーーー
その瞬間、私と森平を繋ぐように鎖が現れ、そしてその鎖が赤い糸に変わっていく。
ーーー多分倦怠感あると思うから気をつけてーーー
その言葉を聞いた瞬間、突然私の体はまるで重石でものったかのように重くなり、動かなくなる。
「ガッ……くぅ………」
ーーー……まぁもうやることは終わったから、見てみ?ーーー
そう言われ森平を見ると、先程まであった傷がなくなり、呼吸も戻っている。
ーーー一応説明すると、その契約は他者と命を共有する契約で、片方が死ぬと、もう片方も死ぬ。そんな契約だから。ただ、その代わり、寿命がなくなって、それ以上、体が成長することも無くなる。そんな効果ーーー
「待って!それって実質不老不死じゃ……」
ーーーそんなんとは違うよ……とりあえずまぁ、後はそっちの努力次第だからね?一応今回はサービス……特別に帰してあげるけど、もし次似たようなことがあっても手伝わないからね?ーーー
「えっ?……あ、その……ありが」
ーーー礼はいらない、多分この後の方が大変だからーーー
「?それはどういう………?」
ーーーそう遠くないうちにわかるよ、それじゃ、じゃあねぇーーー
そうして私は気がついた時にはいつもの調合室にたっていたこととなった。
「……最上位魔法……テレポート?しかも他者に使用可能の……」
その私の声が、しかし答えが返ってくることは無かった。
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side:シェリー
「……っぶなぁ!!ほんと死なせるところだったァ!」
先程までヒナミの援護をしていた少女、シェリーは1人木にもたれかかって座っていた。そして腕についている時計をみて……
「やばいよ本当に……”時計”もかなり時間無くなってたし、代償で身体中痛かったし、ダルいし、怖かったぁ……予測もぜんっぜんできないし……弱くなったなぁ……」
空を見上げる。そしてため息。
「はぁ……ほんっと、現実はままならないものだよ……辛いなぁ」
その目はどこか遠くを見ていて。
「でも、せめて”この世界”のキミは助けるよ。それがせめてものの私の償いだ」
今、シェリーのいる場所は先程の森、奥地である。
「……しっかし、最近私の出番、すくなくなってないかに?暇だしにゃぁ……」
ヒナミがある程度は倒してはいたが、それでもまだかなりの魔物がいる。
「んー、ここの国の名前、エルザー国だっけ?えーと、今はいつだ?早くしないとあの日が来ちゃうなぁ……とりあえずどういう”設定”で行くか……」
だがシェリーの近くに魔物の動く気配はない。
「守るよ……誰も死なせない。じゃないと”あの子”が救われない……だから、救いようのない悪ならともかく、優しい人、巻き込まれた人、道を踏み外さなくては行けなくなった人、もし、ほんの少しでも、優しさが残っているのなら、私は……」
シェリーの近くに魔物が近寄ってきた。
その魔物はシェリーを餌と認識し……
「そんな人は完全に、命も、体も、心も救ってみせる……まずはあんただ、森平。もう準備は整った……」
シェリーの持つ杖の光を浴びて消えていった。
「後は頑張れよ?」
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side:ヒナミ
あれから1週間。未だに森平は目を覚まさない。
そろそろ目覚めてくれてもいい頃だと思う。
「……仕事に手がつけられないから」
その言葉が聞こえた訳じゃないのだろう。だがその瞬間、森平が動いた気がした。
「ッ!?森平!!」
だがそんなに現実は甘くなかった。何故なら………
シェリー:患者、森平の治療準備開始。
治療場所:心
治療方法:森平の優しさに漬け込み、信頼、勇気による治療。
その為に、1つ、この後に発生する絶望を弱体化させ、そのまま送ります。
初期設定との違いは第一章終わってからまとめて書きます。ちょっと多いので。




