人間一名様
自分もこう同じ仕事をしている身だからか。
ここにはまともな奴っていないなぁ。そう感じる事は良くある。
ここに務めてから、頭がイカレちまったのか。それとも、来る前からイカレてんのか。
後者の方が多い気がする。
物流ってお仕事は……。
◇ ◇
「物流の仕事はどこも1人で仕事する感じだからな。チームワークがー、とか言うけど、各々がしっかりと力を付けなきゃ意味ないんだよ」
今週なんだか、そーいうニュースが国中に伝えられた。
そりゃあ、たまたまその仕事をしていただけだろうと、軽く思っておきたい上司の心。雇った奴がそー思いたいのに、現場や会社を超えて、制御できなかった個人の責任にしたい。
そんな後始末ではなく、その火の粉をぶちまけられて、くだらねぇ事務処理をしている部長2名。この仕事はやってらんねぇーって、言葉は同類の方が意見を賛同してもらって良い気分だ。
部下達にアンケートをとらせ、そのチェックをしているわけだが。
「やらかす度に資料や講習にチェックってのは、上はどこいっても変わらねぇな」
「山口部長は現場からですから、ご理解が難しいと思いますが。我々も責任をとるため、こーいう事を実施してますとアピールしなきゃいけないんですよ。世間様にはな」
「分かってるよ、蓮山部長」
「まぁ、私だってこんな事に意味があると思ってませんよ。ただのパフォーマンスです。私達の管轄では絶対に、犯罪者を出さないようにしましょうね。晒し上げされるのはお断りです」
「みーんな、カンニング回答にしてるからな。暇じゃねぇーし、これやるための人件費はだせねぇーし。経営キツイんじゃい。分かってんのか?」
会社内での犯罪行為を防げ。自分もしかり、部下共もしかり。しっかりと手綱を握ってやらねばならん、奴隷共の世話。見下す優越感は悪くないが、馬鹿を見下すのは気分が晴れないものだ。
犯罪1つにつき、それに関わる仕事をする者達が上のパフォーマンスにつき合わされる、ムダな会議やアンケート、誰もしねぇ相談窓口の開設やら。
余計な仕事を増やすんじゃねぇと、9割以上の奴隷共が口を開かずとも態度に見せる。そんな特例の馬鹿のためにかよって……。
犯罪を起こした個人が悪いんだよって、世間がどれだけ思ってくれるか分かったもんじゃないが。
企業に与えるイメージダウンは相当なもの。
ちょっとのミスを大袈裟に言いやがる奴もいれば、証拠もなにも出ないのに騒ぎ散らす奴。隕石が落ちてきたみたいに騒いでくれて、毎日お前等に届く荷物は当たり前の事だろって思われる。そーじゃなきゃいけねぇんだが、さすがにどんな人間が上に立とうが、優秀な人工知能でも、不出来な部下共を叱ったところで改善されやしねぇわ。ワケ分からん問題にぶつかるやらで。
そんな働くことに嫌気を刺した連中を気遣いまでせにゃならん。
結局は辞めていくんだし。
「ったく、奴隷共は定着しねぇな。うんうん、はいはいって言って。普通の仕事を感謝して、普通にこなしゃーいいんだよ。最近の連中はこんな簡単な事もできねぇのか?犯罪に走ったりしてよー。迷惑も分からねぇ歳か?365日24時間働く刑に処してー」
「現場上がりだと楽に言えていいですね。私は現場なんてお断りです。結構な仕事じゃないですか。肉体労働なんてこの歳になったら、人にやらせたいですよ。そして、私は過ごしやすいこの席でのんびりしていたいですよ」
どちらの部長も、意見も思想も違う。しかし、仕事に対しては非常に真面目な考えを持っている。だが、そーいう事が上手くいかないのも人間問題。
「パワハラは辞めろや、仕事はちゃんとしろ、人手不足を言い訳にすんな、犯罪者を出すな、ミスする人間はいらねぇわ。……ったく。人間一名様は随分と生意気で我侭になっていけねぇや」
「技術や環境が進歩するほど、人は高慢になってきたという説がありますね。人間一人は昔からそう大した進歩は遂げておらず、群衆や組織となって発展したんですけどね。どーやら、勘違いされた人達もいるようです。……そーいうのを仕方なく、こちらが拾ってるわけですがね(それで人手不足なのが、なんともねぇ)」
「俺達の仕事はそーいう、勘違い馬鹿共を調教させなきゃいけねぇーんだよな。あー、やっぱ現場に戻りてぇな。現場で虐めてぇ。この役職だと、お世話ばっかりだ」
2人は酷い事を言っている連中かもしれない。
しかしながら、今日届いている荷物。今日お店に並んでいる品々。高速道路や一般道路を走る運送会社。そのほとんどの人達は言葉に怒りながらも、凡才かそれ以下に集められた者達である。車を動かせれば仕事となるもの。
未来の犯罪者だろうが、過去の犯罪者だろうが。
現状で問題を起こさねば、彼等は別に何事も問題のない奴隷として扱える。
給与はいいけど酷い労働を強いる、刑務所はここだ。
車を走る牢屋と例えたら、たとえ1人が気楽でも頭がおかしくなっちまう。事故を起こせば、巻き込まれるだけでも無事じゃ済まない。
物流に限らず、仕事をしている者達はなにかのリスクを常に負っているものだ。
「俺達の奴隷は、そこらへんの自覚を見せて欲しいもんだぜ」
「頑張って社員を奴隷にしましょうね」
今日も一日、我々の管轄は
『無事故、無犯罪、誤配なし。お客様に笑顔と安全、信頼を届けます』
明るく元気で真面目な、素晴らしい奴隷達です。




