第八話 クビになった二人
「そういえば、まだ俺のことを話してなかったな」
一度話すのをやめて朝食を食べきった後、ハーキが持ってきた飲み物を飲みながらブレンはそう切り出した。
「ごすじんさまの事ですか?」
「ああ。改めて、俺はブレン・ガンダフ。駐屯騎士団コワード分団所属……あ、クビになってたんだった。すまん、今は無職だ」
うなだれるブレン。今日から無職であるという事実の前に改めて打ちのめされる。というか、無職なのに奴隷を連れて帰っていったい自分はどうするつもりだったのかとブレンの冷静な部分がなじった。
しかし、そんな彼を慰めるようにレティが意外なことを話し出した。
「あの、レティもごすじんさまと同じで、クビにされたんです」
「え? クビに?」
「レティはグズだからもういらないって、あの路地に連れていかれて、ここで次のごすじんさまになる人を待てって言われたんです。次に目に入った人が新しいごすじんさまで、それで、その……」
夢中になって飲んでいたミルクを置いてレティが答える。その様子はつらく重苦しいもので、彼女は答える前に恐る恐るブレンの方を見た。
「あの、ごすじんさまは、怖い人ですか?」
「怖くない。俺はレティの味方だ」
「痛いこと、しないですか?」
「しない。初代ガンダフに誓ってもいい」
「しょだい?」
きょとんとするレティにブレンは慌ててなんでもないと付け足した。
「とにかく、俺はレティに酷いことはしない。約束するから、何があったのか話してくれ」
レティが不安そうにブレンを見つめる。だが彼女は決心して、ゆっくりと静かに続けた。
「レティを置いていくとき、前のごすじんさまがはレティのおなかを刺したんです。すごく痛くて、助けてって言っても、前のごすじんさまは笑いながらどこかに行っちゃったんです……」
「なんだそれ」
ブレンの反応は淡泊だった。だが、その声は明確な怒りに震えていた。一体どんな神経をしていれば、レティのような小さな女の子に暴行を加え、一生消えない傷を刻み込むことができるのか、ブレンには理解できなかった。
「あ、あのごすじんさま。嫌な話をしてごめんなさい。やっぱり話すんじゃなかった―――」
「どうしてレティが謝るんだ。お前は何も悪くない。悪いのは絶対のお前の前の主人だ。少なくとも俺は許さない」
顔も名前も知らない相手だったが、今この時そのレティの元主人が現れたのなら、ブレンは迷いなくそいつを殴り倒していたほど彼の怒りはすさまじかった。
「レティ、お前の前の主人はどこのどいつだ。俺が仕返しをしてやる」
「あの、ごめんなさい。レティ、前のごすじんさまの事は男の人だってこと以外は何もわからないんです」
「そうか……」
言いながらブレンはいぶかしんでいた。あったことがないというならまだしも、奴隷が自分の主人の名前を知らない、というのは妙な話である。自分の所属がわからない奴隷などいるのだろうか。
しかし、レティの元主人についてはこれ以上手掛かりを得られそうにない。また、ブレンはレティの仕返しをするよりも先にやるべきことがあることに思い至った。
「町に出かけるぞ、レティ。お前の身体を治癒術師に診せて、治せるところは治してやる」
「え!? で、でもごすじんさま。治癒術師様に診てもらうのは、すっごくお金がかかりますよ? 前のごすじんさまは、それでよくレティを怒ってましたし……」
「心配するな、当てはある。お前のことも、ちゃんと治してやれるはずだ」
そう語るブレンの脳裏には、査問委員会で唯一自分をかばおうとしてくれていた幼馴染の姿が映っていた。
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