第二十話 嫌悪の理由
「テシン、お前は家に戻っていろ」
「でも、お父さん……」
「早く戻れ!!」
怒鳴り声にすくんだテシンは申し訳なさそうに一度だけブレンとレティを見やるが、すごすごと家に戻っていった。家のドアが開いて閉じるのと同時に今度はハルゼンが牛舎の戸を閉めてブレンに詰め寄る。
「お前、どういうつもりだ! モーラのことがテシンにとって……この家にとってつらい記憶だというのがわからないのか!?」
「知らなかったのでわかるわけがないですよね。確かに辛いことを思い出させてしまったことは申し訳ないと思いますが、わけもわからずに敵意を向けられるレティや俺の身にもなってほしい」
「知ったことか! もういい出ていけ! これだからヨソ者なんか入れるべきじゃないんだ!」
激怒するハルゼンに対してブレンは少しでも自分の話を聞かせようと声を張り上げた。外部の人間を嫌う理由を、結局テシンからも聞けていないからだ。
「俺たちが何をしたっていうんだ! 確かに村に来た研究者っていう連中は心の傷をえぐるマネをしたんだろうが、俺たちは―――」
「そいつらが帰った後、この村は見捨てられたんだ! いや見捨てられるどころじゃない。いままで倒れた駐屯騎士団の代わりもよこさなかったくせに、今更になってお役人やら王都のお偉いさんやらが来て封鎖地区を開墾するとか言い出しやがる! なあおい、これは何の冗談だ!?」
「―――そうか。そうだったのか……」
ブレンには何も言えなかった。国策の移住計画。未開の森を切り開き、人が住める状態にして王都からの移住者をそこに住まわせる計画。
だが、その魔物がはびこっている場所はもともと彼らの土地だった。助けを求める彼らの声は無視しておきながら、いざ自分たちが困ればその土地に目をつけて利用する。そんな所業、彼らが納得するはずがない。
(なんでそんなことにも気づかなかった……!)
レティのことで頭がいっぱいだったからだろうか。確かにブレンには、レティを守り幸せにすることを第一に考えて他の事をおろそかにしていたのか。
「知らなかったとはいえ、そういうことだったら謝る。でも、俺たちにも事情があるんだ。どうか、話を聞いてくれないか」
「知ったことか! 出ていけ! どうせ今日新しくきた駐屯騎士団の連中だって俺たちからあの土地を取り上げるつもりなんだろう! 二度とこの村に来るな!!」
(だめだ。話を聞いてもらえない……!)
顔どころか全身が真っ赤になるほど激怒したハルゼンに聞く耳はない。鬼の形相で、今にも殴り掛かりそうなほど握りしめたこぶしだけが真っ白になっている。
このままでは殴り合いになる。張り詰めた空気にブレンが額から冷や汗を流した時だった。「きゃっ!?」と隣にいるレティが小さく、しかし鋭い悲鳴を上げたのだ。
「どうした!?」
「ごすじんさま、なんだか外に……こわいのが……!!」
「怖いの? ……な、なんだこの気配!?」
レティが感じ取った恐ろしい気配は、ブレンにもすぐに分かった。そしてその直後、牛舎の外、そう遠くない場所から、建物が吹き飛ばされる轟音が鳴り響いたのだ。
「なんだ!?」
「見てくる!」
いうや否やブレンが飛び出す。はたしてそこにいたのは、ビーク村の民家をはるかに超える巨体の魔物だった。
「な、なんだあの魔物は……」
「あれは確かマウントエイプです。でも、平原にすんでいるような魔物がどうしてこんな山に囲まれた場所に……?」
ビーク村へ来る道中で戦ったストーキングウルフといい、ブレンは近頃出くわす魔物に違和感を覚えていた。思えば封鎖地区で見かける魔物の中にも、見慣れない魔物やまったく見たことのない魔物が多い気がする。
だが、考えている時間など今はない。ブレンはレティとハルゼンに振り替えると早口で支持を出した。
「家の中にいるとかえって危険だ! 二人とも外に出て、なるべく離れた場所に逃げろ!」
「ごすじんさまは!?」
「俺があいつを倒す!」
コワードたちは来るだろうか。いや、コワードがいくら部下を引き連れてきたとしても、ブレンが役場で出くわしてからまだ1時間と経過していない。
そもそも、今すぐマウントエイプと戦えるのはブレンだけだ。そうである以上、彼自身が今は戦わなくてはならない。
ブレンが手の中に剣を召喚する。そうして外に意識を向けたとき、マウントエイプの居た方向から悲鳴が上がった。
「た、助けて下さぁぁい!!」
「っ!! ナナァ!!」
聞き覚えのある悲鳴だった。その声がナナの悲鳴だとブレンが気付いた時、先に飛び出していたのはハルゼンだった。
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