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第十八話 テシンの寝言

 役場を後にしたブレンとレティは、家に戻ることにした。ブレンも今日は魔物退治に行かなくてよいので、ハルゼンを手伝う予定だ。


 「それにしても、村の人たちはどうして急にあんな目を向けてきたんだ……?」

 「あ……あの、ごすじんさま」


 ブレンがレティの方を見やると、彼女は思い出すようにゆっくりと語りだした。


 「あのコワードっていう人、どんな人なんですか?」

 「あいつか? さっきも言ったけど俺の元上司だ。前に住んでいた王都で駐屯騎士団の分団長をやっていた」


 それがどうかしたのだろうか。ブレンが疑問に思っていると、レティはおびえた様子でつづけた。


 「あの人、見ているとなんだかとても怖いんです。あのへんな笑顔を見ていると、胸がキュッてして息苦しくなるんです」

 「息苦しくなる?」


 確かにコワードの笑顔は見ていて気持ちの良いものではなかった。ブレンにそうしていたように普段から人を見下し、自分の思うままに動いて当然という傲慢な性根が灰汁のように浮かび上がった顔。それがゆがんで作られる笑顔が、愉快なものであるはずがなかった。

 しかし、そうだとしてもレティの反応はやや過剰なようにブレンは受け止めた。確かに気持ち悪い笑顔だが、息苦しくなるほどだろうか。


 「まあ、腐っても駐屯騎士団の人間なんだ。人々を守るっていう仕事くらいはするだろ。多分」


 実際、グールアパート事件においてコワードが巻き添えを出してでも粛正大結界を使うことに決めたのは事件の早期解決を狙ってのことだとブレンは聞かされていた。ブレンは巻き添えが出るという点に反発して命令違反を犯したが、コワードも駐屯騎士団の人間であることに違いはないとも思っている。


 「だから大丈夫だ。それに、もしあいつがお前に何かするっていうなら、俺が守ってやる」

 「ごすじんさま」


 不安げな表情から一転してレティが頼もしそうにブレンを見上げる。ひとまず彼女に安心感を与えられたらしいとブレンが前に向き直ると、ちょうど家の前に着くころだった。


 「さて。多分牛舎の方にハルゼンさんかナナがいるだろ。声をかけて仕事をもらおう」

 「はい!」


 頭を切り替え、張り切って二人は牛舎へと向かう。二人とももうここでの仕事にはすっかり慣れた様子で足を踏み入れていた。

 しかし、そこにハルゼンやナナの姿はなかった。


 「テシンくん?」


 代わりにいたのは長男のテシンだった。どうやら居眠りをしているらしく、椅子に腰かけ柱にもたれたまま眠っている。


 「すごいな。牛が鳴いているこんなところで居眠りできるのか」

 「テシンくん。起きてください」


 テシンくん、と彼を呼ぶのはレティだ。テシンはレティにとっては初めて見る自分より年下の人間でもある。そのため年上の女性っぽいふるまいはナナをまねているのだとブレンは聞いていた。


 「うん……」

 「こんなところで寝ていたら風邪をひきますよ。起きてください」


 なるほど、確かにナナも同じことを言うかもしれない。そう思いながらブレンが二人を見守っていると、テシンが反応した。うっすらと目を開き、寝ぼけ眼でレティを見上げる。


 「あ、起きた。テシンくん、ハルゼンさんとナナさんを知りませんか? レティとごすじんさまは今帰ってきたところで、何かお手伝いしようと思ったんです」


 レティが説明するが、テシンは心ここにあらずといった状態で聞いている。まだ半分寝ているような意識なのだろう。だが、だからこそだろうか。テシンがぼんやりしたまましばらくレティを見つめ続けたかと思うと、思いがけないことを口にしたのだ。


 「モーラ姉ちゃん……?」

 「え?」


 モーラ。まったく聞きなれない人の名前。テシンの口ぶりから察するに彼の姉か、そのような存在の女性なのだろうか。

 テシンはそのままレティに抱き着くと、甘えるように頭をレティの身体に擦り付けた。


 「え? ええ?」

 「帰ってきてくれた……モーラ姉ちゃん。みんな心配して……」

 「ちょ、ちょっと待ってくれテシン。誰だ? そのモーラっていう人は」


 頭を擦り付ける感触とブレンの声。それらが刺激となったのか、テシンの動きがピタリと止まった。どうやら寝ぼけた状態から完全に覚醒したらしい。

 バッとテシンがレティから体を離す。そしてそのまま「何でもない」といって走り去ろうとするのをブレンが肩をつかんで止めた。


 「ちょ、放せ!」

 「待ってくれテシン。モーラっていうのは誰なんだ」

 「うるさい! アンタには関係ないだろ!」


 家を空けているせいでブレンは全然なつかれていない。どうしたものかとブレンが腕づくでテシンを止めていると、レティが近づいてきてテシンに言った。


 「テシンくん。モーラお姉ちゃんってだれの事?」

 「そ、それは……」

 「レティもごすじんさまも知りたいの。そうじゃないと、なんだか村のみんなから仲間外れにされているみたいでいやなの。お願い」


 そんなレティの懇願ともいえる説得にテシンの心は揺れているようだった。すかさずブレンもレティに続いてテシンに頼み込む。


 「頼むテシン。この家の人たちは俺たちを受け入れてくれているけど、お父さん……ハルゼンさんだけは別だ。それに、このままだとお互いにやりづらくないか?」

 「…………」

 「俺たちに何か悪いところがあるなら改善する。頼むテシン。教えてくれ」


 ブレンはそういって深く頭を下げたことにテシンは驚いた。子供である自分に頭を下げる相手など、今まで一人もいなかったからだ。


 「どうしてそこまで……」

 「実をいうと、レティには身寄りがないんだ。今でこそ俺がいるけど、レティは自分の両親さえ知らない。そんなあいつに、居場所を作ってやりたいんだ」

 「家族が……」


 テシンが絶句する。しばらく彼はそうしていたが、やがて一つ納得したかのようにうなずくと、「父さんには話すタイミングを見計らった方がいいと思う」と言い含めて話し出した。


 「モーラ姉ちゃんっていうのは、俺とナナ姉ちゃんの間にいた、もう一人の家族だよ」

本作を読んでいただきありがとうございます!


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