第十七話 冷たい視線
「……左遷されたのか?」
「栄転ですよ。命令違反で首になったアナタと違ってね。王都で食い詰めた挙句、貧相な農民暮らしとは」
コワードがあげつらう。早速王都出身という情報をばらしたコワードにブレンは内心で舌打ちをした。
「考えても見なさいブレン君。今まさに復興しようとしている村のお手伝いができる! 人々を守る駐屯騎士団の分団長として、これほど申し分のない仕事がありますか?」
役場の村人たちに聞こえるように大袈裟な仕草で語るコワードにブレンは内心気持ち悪さを覚えた。
「おやぁ? そちらの子供は初めて見ますね。ああ、ブレン君のご家族で?」
「……従者のレティだ。怖がるからあんまり近寄るんじゃねえよ」
実際、レティはおびえるようにブレンの足にしがみつき、その後ろに隠れてしまっている。その様子をコワードは気色悪いほど朗らかな笑顔で見ている。
「おやおや。嫌われているようで」
「分団長殿。いかがなさいましたか」
役場の奥からヤンマー村長が現れる。その服装はいつもと違って格式高いもので、ブレンが村にやってきたとき以上に整った身なりにさえ見える。
「知り合いがいたもので。ではブレン君、我々はこれから大切な会議ですから。失礼」
コワードが部下たちとヤンマー村長を引き連れて悠々と役場の奥へ去っていく。
しかしまさか潜伏中にコワードと鉢合わせるとは。平静を装うとしたブレンだったが、内心は混乱するほどに動揺していた。
「ブレンさん。もしかして、コワードさんとお知り合いなんですか?」
「ああ。といっても、前職で上司だったってだけだ」
「ええ!?」
受付嬢がすっとんきょうな声を上げる。「それじゃあ、ブレンさんは元駐屯騎士団所属だったんですか」と念押しするように彼女はブレンに尋ねてきた。
「まあ、その通りだ。
「でもいままでそんな話は一言も……」
「言わない方がいいかと思ったんだ。王都で暮らしていた人間が村に移り住んだら白い目で見られだしたっていう話も聞くから」
ここにきてブレンは自分とレティが王都から来たことを隠そうという考えをあきらめるしかなかった。少なくともコワードがこの村に滞在するのなら、隠し通すのはどうやっても難しい。
それに、村という狭いコミュニティにおいて情報の伝達スピードは速い。下手に隠すよりもオープンにした方がかえって怪しまれず、話題としてもすぐに消えるだろうとブレンは考えた。
「そうだったんですか……ああでも、ブレンさんの人となりを知られる前にその情報が流れなくてよかったかもしれません」
「どういうことだ?」
「村の人たちは、騎士の方々をあまりよく思っていませんから」
「……例えば、ハルゼンさんとか?」
受付嬢が動揺するのをブレンは見逃さなかった。やはりそうだったのだ。
「村に来た次の日、クラースってやつに案内されたんだが、あの人は最初から俺に退治じゃなくて調査の任務を言い渡してきたし、封鎖地区の門番たちも俺をなめ切った態度だった」
「そ、そうだったのですか!? それは、大変申し訳ありませんでした!」
「いや、俺が言いたいのは村の中に俺のことを最初から弱い奴だと決めつけている奴がいるってことだ。確かに、普通に考えてみれば一人で魔物を退治するのはかなり危険だが、いくら何でも村長のお墨付きで来たのにあそこまで侮られるのは、それなりの理由と根拠があってのことじゃないのか」
さらに言えば、封鎖地区で魔物の襲撃があったのは一年前の事。にもかかわらず、封鎖地区を見張る門番は二人とも村の人間だった。駐屯騎士団が壊滅したにもかかわらず、丸一年もの間、何の人員補充もされていなかったというのか。
「教えてくれないか。この村がよそ者に対して妙に冷たい理由を」
ブレンの射貫くような視線に対して、受付嬢は受け止めきれずに目をそらす。
だが、抱えていた違和感を解消するチャンスだと踏んだブレンは受付嬢をさらにという詰めようとした。だがしかし、レティにズボンのすそを引っ張られてそちらに意識を向けると、彼女はおびえた目でブレンを見上げていた。
「どうした、レティ」
「ごすじんさま、お顔が怖いです。それに、さっきから役場の人たちの様子が変で……」
そういわれたブレンが周囲を見ると、彼はぎょっとする光景に気づいた。村人たちがじっと、ブレンの一挙手一投足全てに目を光らせて見つめているのだ。
そしてその目。その雰囲気からは確かな拒絶の意思が見受けられた。
「これ以上探ってくるな」と。
「……すまない。今日はもうこれで帰る。魔物の素材の処理、よろしく頼む」
「は、はい。ではまた」
ブレンはレティの手を引いて役場を出た。しかし村人たちの視線はブレンが役場から出てドアで遮られるまで、ずっとブレンの背中に突き刺さっていた。




