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第十三話 女神の聖剣


 触手が細切れになって落ちる。ブレンの手には新たに輝く剣が握られていた。

 その剣は今までの片手で扱える軽い剣ではない。光り輝き、剣の腹に模様が浮かび上がっているのは同じだが、ブレンが両手で抱えるほど大きく、落ちれば地面に深く突き刺さるほど重い。


 「はぁ……はぁ……」


 ブレンの息は荒い。それでも立ち上がると彼は大剣を引き抜いて構えた。


 「ったく。王都で戦っていると使っても三割までだからな。五割で召喚するのは久しぶりだ」


 ブレンの剣を召喚する魔法は、呼び出す剣の()()()を調整することができる。例えば、普段の片手剣は一割未満の再現率で、強敵が相手だと三割といったところだ。

 だが相手は人間ではなく巨大な魔物。威力を得るために五割の再現率で剣を召喚したブレンだったが、三割以上は呼び出すだけで体力を消耗するのだ。


 「来いよ。この剣でダメなら俺もいよいよ腹をくくらなくちゃならねえ」


 ブレンがタワープラントに向けて挑発する。それを理解したのかは定かではないが、タワープラントたちはまたも花をブレンに向けると高速で種を射撃しだした。

 対するブレンはタワープラントの包囲を抜け出しながら大剣を盾のように構える。固く鋭い種が大剣を直撃するが、ブレンの身体はもちろん、剣にも傷一つついてはいない。


 「よし! いける!」


 射撃がやんだタイミングを見計らってブレンは深く踏み込むと剣を背後に構えて飛び出す。そしてそのまま鎌で草を刈るように剣に自分のスピードを乗せて一気に振り切った。


 ザクザシュッ!!


 太い紙の束を切り裂くような音と共にタワープラントが根元から両断される。再生の余地もなくタワープラントが倒れるとブレンは一度停まって体勢を整えた。

 しかし残りの三体がその隙を見逃さない。二体がブレンに向けて巨大な葉を振りかぶると一体は上空に向けて種を射撃する。


 「なんだ?」


 葉を迎え撃ちながらブレンが上空に目を凝らすと、種は先ほどまでの固く鋭い物ではなく、かなり綿毛のついたものであることに気づいた。ゆっくりと落ちてくるそれは、しかし人間のこぶし大の大きさだ。

 と、ブレンの頭に何かが振ってくる。ポテンと落ちたそれは割れた種だった。

 その瞬間、ブレンは剣を消してそこから飛びのく。直後、ブレンの居た場所にとげを持つ大量のツタが降り注いできた。


 「まさか、空中で発芽したのか!?」


 ブレンの推測通りだった。あの綿毛付きの種は空中で割れると、中からトゲの生えたツタを降り注がせるものだったのだ。しかもツタはうねうねと動いており、もし体にまとわりつけば肌をズタズタにされていただろう。

 多彩な攻撃に生ぬるい攻撃では傷つかない身体。長期戦になればなるほど不利になるとブレンは悟った。


 「多少は無茶だが……仕方ない!」


 ブレンはタワープラントたちから素早く距離を取って廃墟に身を隠すと意識を集中した。雑念を追い払い、こちらを探すタワープラントたちの事さえ頭の中から追い出す。

 すると、ブレンに光る魔方陣が浮かび上がった。続けてブレンが剣を握るように両手を構えるとそこに光の束が集まっていく。


 「―――知恵の女神にこいねがう―――」


 静かにブレンが口ずさむ。


 「―――我が肉体に強靭を、我が精神に冷徹を、我が魂に不屈を。邪悪なるものを討ち滅ぼす剣を与えたまえ―――」


 それは詠唱だった。剣を召喚する魔法。それをブレンが会得したその日に、女神アシィナから賜った魔法の呪文。

 ブレンの身体が輝きを帯びる。やがて輝きは熱を帯び、その時になって目のないタワープラントたちはやっとブレンの居場所に気が付いた。

 だが、もはや手遅れ。


 「来たれ―――女神の聖剣よ!!」


 落雷のような轟音。廃墟を吹き飛ばす爆発の後、土煙を吹き飛ばしてブレンはそこにいた。

 手には光の束が実体を持ったかのような大剣が握られている。剣の腹には古代文字で女神アシィナへの賛歌が刻まれ、ブレンの身の丈を超えるほど巨大な刃は熱を帯びている。

 これこそは女神の聖剣。ブレンの魔法とは、この剣を再現して召喚するものだ。


 「せぇ……の!!」


 ブレンは剣を大上段に構えるとタワープラントめがけて無造作に振り下ろした。対するタワープラントも三体が素早く互いに身を絡めあい、巨大な束になって斬撃を防ごうとした。


 ドガァァッ!!


 しかしそれは、無駄なあがきでしかなかった。巨大な剣はタワープラントを一刀両断にしたからである。しかも光は高熱に達して周囲の小さなタワープラントも瞬時に焼き尽くした。

 三体のタワープラントが力なく地面に崩れる。そして紫色の煙になると跡形もなく消滅した。そして剣を消したブレンの目の前には、斬撃によってできた巨大な亀裂だけが残されていた。

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