第八話 寝床の二人
「うちの父がすみませんでした……」
「まあ、気にしないでくれよ。料理、すっごく美味しかったってポリアさんに伝えてくれ」
しょげかえるナナの先導でブレンたちは家の中を歩く。二階に案内された二人はある一室に通された。
「ごすじんさま、あの白いのはなんですか?」
「さあ? 何かを布で包んでいるみたいだ……これって、干し草か?」
部屋には干し草を布でくるんだものがある以外には家具らしきものは何もない。きょとんとする二人の後ろで、ナナが申し訳なさそうに「それはベッドです」と補足した。
「ベッド? ってことはここは」
「はい。今日からのお二人の部屋です……その、本当にごめんなさい。お父さんが、やっぱりお二人の事をよく思ってないみたいで」
「まあ、この部屋を見ればわかるよ。それにしても、この部屋はもともと客間だったんじゃないのか? それをわざわざ改装するほどか……」
木組みすらない本当に干し草を布で包んだだけの物、それと壁と屋根だけを貸し与えられているという現実をブレンは改めて突き付けられる。しかしそうして感じたのは怒りではなくむしろ疑問だった。
「なあ、もしかして最近何か不幸なことがあったんじゃないか? それなのに無理して俺たちを受け入れたんじゃ……」
「…………」
「ああ、悪い。無理に話さなくてもいいんだ」
昼間に見せた明るさを無くした彼女からそれ以上聞き出すのはブレンにははばかられた。
「それじゃあ、私ももう寝ますね。おやすみなさい」
「ああ。おやすみ」
「おやすみなさい」
ナナが自室に戻ると、ブレンはまず自分がベッドの上に寝そべると寝心地を確認した。
「うわ。これ酷いな。藁がすごく刺さるし、ゴワゴワしてる」
だが、お世辞にもベッドは寝心地が良いとは言えなかった。干し草は水分が抜けて固く、先端が鋭いのでチクチクと肌に刺さる。
「寝心地どころか眠れるかどうかも怪しいな……仕方ない。レティ、ちょっとおいで」
「?」
ブレンはベッドに座ったままレティを手招いた。そして近づいてきた彼女を抱きかかえると、そのまま自分を下にしてベッドに寝転がった。
「どうだ? これならマシだと思うんだけど」
「で、でも重いですよ。レティは床で十分ですし、ごすじんさまをベッドにするなんて……」
「いいから」
有無を言わさずブレンはレティを抱きすくめて逃がさないようにした。申し訳なさからしばらくもがいていた彼女も、眠気が勝ったのか最後には抵抗を止めて大人しくなる。
「ふわ……ごすじんさま。どうしてハルゼンさんは、あんなに怒っているんでしょうか……」
「どうしてだろうな」
「ごすじんさまに拾われてからレティが出会った人たちは、みんなニコニコしてました……ごすじんさまも、フィアレさんも。王都で見かけた人たちも、幸せそうな人たちが多かったです」
「そうだな」
相槌を打ちながらレティの相手をする。部屋の中は静かで冷たく、音と体温は二人のものだけだ。
「外の人たちは、みんな幸せだと思っていたのに……」
幸せ。ブレンがレティに与えようと願った普通の幸せは危険から遠ざかってゆっくりと生きること。駐屯騎士団として危険に直面し続けたブレンは、危険を避ければとりあえず幸せになれると考えていた。だが、違った。
「ごめんなレティ。俺、甘かったみたいだ。危険から遠ざかれればお前を幸せにしてやれるって勝手に思い込んでいた」
危険だけが幸せを妨げる障害ではない。だがブレンは一刻も早くレティを王都から遠ざけるために、フィアレが探してきてくれた潜伏候補の中から一番早く了解の返事が来たこの家を選んでしまった。レティの心を癒すのなら、もっと受け入れてくれそうな家庭を吟味するべきだったのに。
しかし、謝罪したブレンに反してレティは穏やかな笑顔を浮かべて答えた。
「ごすじんさま。レティは今すごく安心してるんです。ハルゼンさんは怖いけど、でもレティにはごすじんさまがいます。何があっても、きっとレティを助けてくれる強くてかっこいいごすじんさまが」
「レティ……」
またも考えの浅さ加減を思い知らされる。今度はレティを不幸にしてしまったと勝手に思い込んでいた。
「わかった。お前は何があっても俺が守ってやる。改めて約束させてくれ」
ブレンが抱きしめるとレティは安心したように眠りについた。しかしブレンはレティを守ると約束するも、どうすればレティが一番幸せになれるのかをずっと考えていた。
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