第七話 歓迎会
挨拶が済むと、次はポリアが慣れた様子で豊穣神への祈りをささげて食事が始まった。テーブルには二人が来たお祝いにと肉料理や白パンが並んでおり、美味しそうな芳香を立てている。
「うへへー。ブレンさんとレティさんが来る日のために仔牛を一頭潰したんですよー。おかげで私たちも今日はごちそうです!」
「仔牛を?」
言われたブレンが肉料理を食べてみると、確かに普通の肉よりも柔らかく香辛料を使っているわけでもないのに獣臭さを感じない。仔牛の肉となると、普通の肉とは違う高級食材で、ブレンでも食べたことがなかった。
「こんなにいいものを……ありがとうございます」
「あら。ブレンさんとレティさんは今日から一緒に暮らすんですもの。それに、ディーメイの教えでもあります」
豊穣神ディーメイは、文字通り農作物の生育を司る神だ。豊かな実りをもたらすほか、安産や多産も司るため、女性人気の高い神でもある。ポリア曰く、新参者には一番良い仔牛を食材にして歓迎するという教えも、新参者が入りやすくなるためのものなのだという。
「お母さんはすごいんですよ。村でたった一人の魔術師で、魔術で工事を手伝ったり便利な薬を作ったりもできるんです。おかげで村の人たちからも頼られるし、牛が病気になってもお母さんが治してくれるんです! しかも、ディーメイの分殿で村の子どもたちに魔術を教える先生もしてるんですよ! それから――」
「ところでブレンさん。アンタ、これから何の仕事をするつもりだ?」
ナナを遮ってハルゼンがブレンに尋ねた。その眼は厳しく、ブレンの事を品定めするように光っている。
「うちに居候するというのは了承したが……まさか、タダ飯ぐらいになるわけじゃあるまいな」
「ちょっと、あなた……」
「……村長から開墾予定地の魔物や動物を駆除する仕事を頼まれています。賃金をもらえれば半分はあなた達にお渡しするので、明日から早速取り掛かろうかと」
「そうか。まあ、せいぜい死なないようにな」
それだけ言うとハルゼンは食事を再開した。その態度はやはりそっけなく、これからこの人物の家に住むのかと思うと不安を覚えずにはいられない。
「そうだ。ナナがあんたに借りた金だが、この後返済させてもらう」
「え? でも、大銀貨1枚と金貨1枚だ。無理に返さなくても……」
「そのくらいならたくわえがある」
有無を言わさないその口調も、借りた金を返さなくてはならないという責任感というよりも金は返すからその話題は二度と口にするなといった様子だ。取り付く島もないとはこのことだろう。
しかし、そんなハルゼンとは対照的にブレンに興味を抱いた人物がいた。テシンだ。
「魔物ってなに」
急に話しかけてきたテシンに数秒遅れてその質問が自分に向けられたものだと気づいたブレンは、魔物についてできるだけ噛み砕いた説明を始めた。
「魔物っていうのは、人間だけを襲う生き物の事だ。どんなに腹を空かせていても人間しか食べないし、死ぬと煙みたいに消える」
「じゃあ退治してもわからないよ」
「いや、体の一部……骨とか歯みたいに固いものが残るんだ。それをもっていけば、倒した証拠になる」
例えば、ブレンが倒したストーキングウルフであれば、たいてい鼻先までの頭蓋骨が残る。魔物によって残る者は違うので、判別もたやすいというわけだ。
「なんで全部残らないの?」
「なんでって……なんでだろ」
魔物の生態には謎が多く、まして学者でもないブレンが答えられるのはここまでだった。しかしテシンはなんでなんでと繰り返している。
「こらテシン。あまりブレンさんを困らせちゃダメでしょ」
「むぅ……」
ナナにいさめられてテシンはようやく質問をやめた。第一印象ではハルゼンと同じくぶっきらぼうな子供だと思われたが、少し違うのだろうか。
「じゃあじゃあ、ブレンさんはここに来る前はどこに住んでいたの? なんでこの村に来たの?」
「テーシーンー?」
「そうだな。俺たちの事も話さなくちゃな」
話すチャンスだと考えたブレンはカスペルバーグ家の人々に自分たちの来歴を話した。王都に住んでいたこと、王都にグールという魔物が現れるようになったので逃げてきたこと。もちろん、レティと共に邪神の信徒から身を隠しているという事は伏せ、それに繋がりかねないような話も伏せなければならなかった。
だが、既に自分が王都の元騎士であることを知ってしまっているナナの手前、そのことだけは話さなくてはならなかった。
「そうなんです! ブレンさんってば、王都だとすごく有名な騎士だったんですよ!」
なのでブレンは、うっかりナナが口を滑らせた言葉をどう取り繕うかと考えていたその時だった。
ガンッという乱暴な音が響く。ハルゼンがゴブレットをテーブルに半ば叩きつけるようにしておいた音だった。レティとテシンが驚いたあまり持っていた食器を床に落としてしまう。
「あなた?」
「……悪いが、明日も朝が早いんだ。先に寝る」
口調に大した変化はなかったが、ハルゼンが怒っているのは誰の目にも明らかだった。そうして歓迎会は、半ば冷たい空気で終わってしまうことになるのだった。
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