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第六話 カスペルバーグ家へ

 王都と違い、ビーク村には街灯がない。そのためブレンは真っ暗にならないうちにとレティを背負って道を急いだ。居候先のカスペルバーグ家は村役場を南へまっすぐに行ったところにある。


 「あ、ごすじんさま。ナナお姉さんが居ますよ」

 「え?」


 急にレティが言うのでブレンは《見通しの光瞳》を使ってみた。すると彼女の言う通り、道の先にある民家の前でナナがランタンをもって立っているのがブレンにも見えた。


 「レティ、お前って意外と夜目が効くんだな」

 「あっ……多分、暗い場所でずっと過ごしていたからだと思います」

 「そうか。ビーク村は夜になると真っ暗だから、結構便利かもな。それ」


 レティは奴隷として、おそらく檻の中に閉じ込められていたのだとブレンは思い返した。悲惨な境遇から身についた特技だが、少しでも彼女の助けになるといいのだが。

 そうこうしているうちに《見通しの光瞳》を切ったブレンにもランタンの灯りがはっきりとわかるほど近づいた。そうなるとナナにもブレンたちの姿が見えたので、彼女は手を振りながらブレンたちに呼びかけた。


 「ブレンさーん! ナナちゃーん! こっちでーす!」

 「迎えに来てくれたのか。ありがとう、ナナ」

 「いえいえー。今日から一緒に暮らすんですから、家の場所を間違えたら大変なので」


 そう言いながらナナは大きな身振りで背後にある牧場に隣接した民家を示した。


 「ようこそわが家へ! お父さんはあんな感じでしたけど……私とお母さん、それに弟のテシンは、二人が来るのを心待ちにしていたんです!」


 心底嬉しそうにナナは語る。そしてブレンに背負われたレティを見るとニコニコ顔のまま近づいた。


 「レティちゃん、これからよろしくね」

 「はい。よろしくお願いします」


 おそらくナナ自身が人懐っこい性格なのだろうと初対面の時から感じ取っていた。その証拠に、自由になってからまだあまり他人と接した事のないレティが警戒することなくナナと接している。奴隷として虐待されていた彼女がそのような態度になるという事は、ナナ自身に悪意や敵意がないという事だ。それも、天然でそうなのだろう。


 「母親と弟さんがいるのか。ほかに家族は居ないのか?」

 「今は……両親と私、それにテシンの四人でこの家に住んでいます。でも、お話は家の中でしましょう! もう暗くなっちゃいますし」


 そこまで言うとナナはブレンたちに早く家に入るよう促す。彼女の言う通り太陽は既に沈み、真っ暗で何も見えない夜が迫っていた。




 勝手口から家の中に入り、靴の泥を落として台所に入った二人はそのまま居間へと通された。そこでは既に料理が準備されており、テーブルに三人座っている人影がロウソクの灯りに照らされていた。ハルゼンと妻のポリア、それにナナの弟テシンだ。

 ブレンたちが席に着きナナも座ると、まず口を開いたのはハルゼンだった。


 「改めて挨拶させてもらう。私がハルゼン・カスペルバーグだ。隣にいるのは私の妻のポリア。そっちが娘のナナと息子のテシンだ」

 「初めましてブレンさん、レティさん。ポリア・カスペルバーグと申します」


 ポリアはナナの母親であると納得できるほど雰囲気の似通った女性だ。おまけにナナにはない聡明さを感じられる良妻賢母といった女性だ。言葉遣いも柔和で、ナナと同じくブレンたちの事を歓迎しているムードである。


 「娘の命を救っていただいたそうで。本当にありがとうございます」


 そういうとポリアはブレンが申し訳なくなるほど深々と頭を下げた。ブレンが取り直すまでポリアは席に着こうとしなかったほどだ。


 「……テシン。よろしく。あとナナ姉ちゃんの事、ありがと」


 一方、テシンはハルゼンよりであまり二人の事を歓迎していないとすぐにブレンは察した。それにブレンは彼の年齢が気になった。

 ハルゼンのそれに近い黒い髪にぶっきらぼうな視線をこちらに向けるテシンは、どう見積もっても5歳くらいの少年なのだ。ナナが17歳であることを考えると、ずいぶん年の離れた姉弟である。

 だが、ナナが牧場の仕事を手伝えるようになってから生まれた子供かもしれない。いずれにせよいきなり突っ込んだ話はまずいとブレンは思いとどまった。

本作を読んでいただきありがとうございます!


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