第四話 到着ビーク村
馬車がビーク村に到着したのは昼過ぎだった。王都からビーク村まで、この馬車だと三日はかかる。十人乗りの幌馬車で窮屈に座るだけだったブレンたちは、その移動が終わった解放感を味わっていた。
「ごすじんさま、ここで降りるのはレティたちだけですか?」
「そうだ。他の乗客たちは別な村に移住するんだろう」
グールアパート事件以降、王都に住むことに対して不安を持つ国民の中には王都周辺に点在する村や集落への移住を希望する人々もいたのだ。ブレンたちが乗っていた馬車の乗客たちも、みんな安全を求めてビーク村にやってきたのだった。
「あ、そういえば村に新しく大きい家が建てられて、たくさんの人たちが引っ越してきたのを覚えてます。でも、結構大きくて、お屋敷というには変わった造りだったような?」
「多分それは国が建てた集合住宅だな。計画移住民の為のものだ」
「けいかくいじゅうみん?」
「ああ。引っ越し費用を出せない人の中には無茶な引っ越しで魔物に襲われたり、村にたどり着いても元々住んでいた住人とトラブルになることが相次いだんだ。それで、そんなことになるなら国が面倒を見てやろうってことになった。計画移住民は、国の世話になって移住する人たちの事だな」
「なるほど。私も魔物に襲われましたし……」
身震いしながらナナが言う。実際に魔物に襲われる人は後を絶たず、たまたまブレンを乗せた馬車がナナの近くを通りかからなければ、彼女は確実に死んでいたのだ。
そんな彼女の様子にそういえばとレティが尋ねた。
「そういえば、ナナお姉さんはどうしてあんな所にいたんですか? 魔物って、人間だけを襲う危ない生き物だってごすじんさまは言ってました」
「レティの言う通りだな。ナナ、どうして真夜中に一人で森の中に居たんだ?」
「えっと、実は……」
気まずそうに頬をかきながらナナが答えようとした時だった。「ナナ!!」と怒鳴りながら、肩を怒らせてこちらに男が歩いてくる。日に焼けた顔にしわが薄く線を引いている中年だが、農作業で鍛えられたのか膨れた筋肉の持ち主だ。
「お前! 一体どこをほっつき歩いていた!!」
「お、おとうさん! ごめんなさい! その、薬を―――」
「薬だと!? 森へ行ったのか! あれほど行くなといったのに!!」
それこそ怒髪天といった様子でナナの父親がまくしたてる。というか、本当に髪の毛が逆立っているのをブレンとレティは見た。
しかし会話は一方的で、説教の体裁すらなしていない。おまけにナナの父親は怒りで頭に血が上っているらしく鎮静化の兆しもなく、何よりブレンにはレティの事が心配だった。彼女は怒鳴り散らす人間が怖いというのに。
「あなたがナナの父親か?」
「なんだ。いま取り込み中だ」
「今日からお世話になるブレン・ガンダフです。こっちはレティ。それと、何もこんな人前で説教をしなくてもいいんじゃないですか?」
「……ポリアが言っていたのはお前たちの事なのか」
ブレンをじっと見つめた彼は、居住まいを正して咳ばらいをすると、自らをハルゼンと名乗った。その表情はあまり歓迎的なムードではない。
「そうなの! ブレンさんはすごいんだよ! 昨日の夜だって私を助けてくれて、ストーキングウルフを三匹もあっという間に―――」
「お前は黙っていろ! 全く、神殿の修行仲間だかなんだか知らないが余計なことを……」
ハルゼンが後頭部をがしがしと掻きながらぼやく。そうしてブレンの方に鋭い視線をぶつけると威圧的な口調で続けた。
「ポリア……家内から聞いているから部屋くらいは貸してやる。だが自分の食い扶持は自分で稼げよ。それがわかってんなら返事はいらねぇ。村長にあいさつし終わったら家に来い。村役場から南にまっすぐだ」
早口でそれだけ言うとナナを連れてハルゼンは早々に立ち去っていった。その背中を黙って見送るブレンだったが、レティは不安げだった。
「ごすじんさま。あまり歓迎されていませんね」
「まあ、仕方ないさ。ハルゼンさんに限らずビーク村にとって俺たちはまだよそ者だ。不安なんだろ」
そう言いながら、ブレンはさっと周囲を見渡してみる。村の中を川が流れており水の豊かな土地だが、それだけにこの土地を守ろうとして団結する村人たちの絆は強固だろう。裏を返せば、ブレンたちのような新参者は入るのに苦労するかもしれない。
だが、レティを守るためにはまずこの村になじむ必要がある。ブレンは胸の中でそう決意を新たにした。
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